2chの怖い話

ビニール袋

あの日、わたしは本気で怒っていました。むりやり心霊スポットに連れて行かれたからでした
バイト先で仲良くなったA子はオカルト好きで自分でも霊感体質だと言いました
わたしは霊感体質ではなかったし、そんな体質じゃなくて良かったと思っていますが、とにかく怖い話しが苦手でした
理由は怖いからです。怖いから本当に聞くのが嫌でした。関わるのも嫌で
「この話しを読んだ人は一週間以内に」みたいなのも、それらしい文章はすぐに読むのをやめました
最近になってやっとオカルト板やこのスレを読むようになりました
自分のペースでオカルトにも少し慣れようと思ったからです
友達と旅行に行く機会が増えたせいで自分が怖がり過ぎで浮いてしまって
みんなに悪い気がしたし、自分が弱すぎる気がしたからです

前置き長くてすみません
あの日、わたしは同じ時間にバイトとを上がったのでA子の車で送って貰うことになってました
同じ時間で終わる時はいつも同乗させて貰ってたし、たいてい帰りにミスドやファミレスに寄り道してお喋りしました
その日はもうひとり新しくバイトに入ったB子さんも同じ時間で終わり方向も一緒なのでA子の車で帰ることになりました
B子はマジメそうで明るく感じがいい子でした
それでA子の車に3人乗りました。B子は面白いというかその場のテンションを上げる楽しい子です
話しのはずみでA子とB子が盛り上がり、最近首吊り自殺があった公園に行こうという話しになりました

夜9時過ぎでしたが、その公園は少し山裾を登った場所にあり、わたしは絶対嫌だと言いました
ふたりでいる時はわたしが嫌がるとやめてくれるA子がその日はどうしても車からわたしを降ろしてくれません
わたしは空気を悪くして申し訳ないと思いましたが
赤信号で止まった時、強引に助手席から降りる決心をしました
ところがです。いくつも信号があるのに一度も赤信号に引っ掛からなかったのです
とうとう山越えをする道路に入ってしまいました

公園に着くとA子とB子は降りると言いました。「公園の前を通過するだけ」と言っていたのに
わたしは猛烈に腹が立ってきて「わたしは降りない」と言いました
ところがB子が「ひとりで残るほうが怖くないですかぁ」と柳原加奈子みたいな調子で言うのです
わたしはB子に悪気はなく、軽い気持ちでわたしをからかってるだけだとはわかっていましたが
本気で腹が立ちました。怖がり過ぎる自分自身への腹立ちも強かったと思います
言いなりの自分への腹立ちもあり、わたしはつまらないことを思いつきました
「憑かれたふりをしてやろう」と思ったのです
なんか陰湿だし、バカだったと思います

公園は山裾の雑木林に囲まれていて、公園と言うよりグランドみたいなつくりになってました
街燈みたいなのがグランドの周囲を囲んでいるからけっこう明るく人がいないけど思ったほど不気味ではなかったです
で、わたしはわざと無表情を作り、おばけに憑かれたフりを装いましたがA子もB子も気付いてくれません。わたしが不機嫌なのだと思っただけだったのでしょう
公園の入り口から5段ほどのレンガの段差に外野を囲まれたグランドに降り真ん中あたりに進んだ時です
わたしは立ち止まり、精一杯虚ろな目を作りながら一番遠くにある街燈を見つめました
その街燈にはスーパーの白いビニール袋が引っ掛かかっていました

A子とB子は「どしたん?」と言いながらわたしが見つめる街燈を見ました
A子「白いの何?」
B子「ビニール袋やん?大丈夫(笑」
A子「降りる時メガネ置いてきたから見えなーい」

その時、ビニール袋が風をはらんで街燈から外れ
一直線にグランドをこちらに転がってきたのです!

わたし達3人は、B子の「キャー!」を合図にいっせいに走り出しました
距離にすれば100m近くを一直線にこちらに転がってきたのです
車に駆け込んだときビニール袋を見るとレンガの段差のところで止まったみたいでした
A子が慌ててUターンさせてアクセルを踏んだすぐにB子が「あれーっ!」と指さす方を見てしまったのです
遠ざかる運動公園のフェンスにビニール袋がへばりついていました
こっちを睨みながら見送っているようにしか見えませんでした
それより何より、一番何より怖かったのは
ビニール袋が引っ掛かかっていた街燈が首吊り自殺があったまさにその場所だと後で知った時です
最近の事件ですし、地元の発見者周辺からの情報でしたから
本当にその街燈がそれじゃないかと思うからです


自業自得

これは俺の小学校時代の体験談です
5年生の時Y(女)という転校生がやって来た
体育の授業があるわけではないのにいつも体操ズボンを履いてきているオカッパ女だった
俺は「変な奴」と思っただけでそこまで気にしなかった
そして三学期に入った頃あいつは当時イジメの標的だったI(男)と仲がよく
ラヴレターの書きあいなど両思いのような関係だった
そういう関係は小学校というところでは結構広まる感じで皆がいろいろな噂を立てたりしてた
ある日その二人が昼休みにイチャついてたので俺はなんとなく絵を描きながら見ていたら
Yが「見んな!ツバかけるよ!」と怒鳴ってきた。
当時ガキ大将のような存在だった俺はそんな言葉を言われて黙ってるはずがない
「かけてみろwwww」と言ってニヤニヤしてた
するとYは俺に近寄ってきてブフッとツバを吹きかけてきた
もうね、教室に居た見んな放心状態。
俺も本当にやられると思わなかったのでもろ顔にかけられて、放心状態だった
次の瞬間我に返って「なにしやがるコラァッ!」と怒鳴り散らしたが
Yの追弾は更に続く!
俺はそういう事をやられるのが本当にキライで多分小学校生活で一番ブチ切れてた
女とか関係なしにボッコボコにしてやった
血とか出まくってた(鼻血だけど)
殴ったり蹴ったりしてたら近くにいた先生をだれかが呼んできたようで俺は止められた
Yは泣きじゃくってて俺は「ざまぁwwww」としか思わなかった。やりすぎとか思わなかった。

次の日から俺はYをイジメの対象にしていた。
でもYもそれに対抗するように前の机の席の俺に後ろからケシゴムをちぎって投げたりしていた
そんなこんなで6年生になった。本当についてなくて俺はまたYと同じクラス
でもまたイジめてやるとかいろいろ考えてたのでそこまでイヤではなかった
それからはずっと俺のターン!女子供関係なしに顔ボコボコにしてやった
仲の良かったKやTともYを虐める作戦を立てたりしていた
Yの家の前で待ち伏せなんてのは日常茶飯事でそのたびぶん殴ってた
それからYの抵抗もなくなり俺らだけが虐めるといった感じだった
しかし中学生になりYは変わった。
前と違い勉強もできるようになったし性格も明るくなった
俺はというと小学校と同じでこの中学でもガキ大将になってやろうwwとか思っていた
ちなみにこの頃KとTは受験して俺の友達はいなくなった
それからと言うもの俺の人生に終わりが来たよう学生生活だった
Yにあることないこと噂されて俺は先輩や共学になった学校の奴らからイジメられた。
トイレに顔つっこまされたりもした
服とられて変態扱いされたりもした。もう我慢できなくなり不登校になった。
しかし心の教室たるものがあることがわかりそこに通っていた
ある日、俺が心の教室から帰っているとYに会った
奴はニヤニヤしながら満面の笑みである一言を俺に言い放った
Yに言われた一言は今でも鮮明に覚えている

「  自   業   自   得   」

ぜんぜん怖くなくてサーセンwでもこの言葉聴いたときまじでびびった。


禁断のビデオ

俺が東京にきた14年くらい前のこと。

本の町である神保町に毎週のように通って
古書や外国文学を買いあさっていた。
裏通りの本屋をめぐるのが好きだった。

で、エロビデオでもあさろうって気になって
いかにもふるそうなビデオやに入っていったとき、
ふと黒パッケージでタイトルが
「禁断の(読み取れない)」とか言うのが目に入った

得ろ意のかと思ってウラとかビデオの中とか見たんだが、
真っ黒のビデオなだけで何もわからなかった

500円て値段シールが張ってあったので、買ってみた

店員にきいても、出自なんかしらんみたいだし、
オカルトコーナーに乱雑に積んであった
なかから引っ張り出した誇りまみれの
ガラクタに責任なんか持てるかって
感じだったから試しに買ってみることにした。

で、家に帰って早速見ようとほかに買ってきたエロビデオを
それぞれ下見して最後にその黒いやつをデッキにいれてみようとしても、
デッキがへんな音がするんだな。
ガキン、ガチャン、ジーコとか明らかに
テープの読み取り音じゃない。

やべえ ぬっ壊れたか?とか思って何度か
取り出したり、入れて自動再生しないように
してみて、ようやく、ブルーバック的な画像らしきものが映る
前の読み込み画面なのが始まった。

エロビデオを先にみてたから、音声はきわめて小さくしてたんだが、
映像は青いのに、ぶつぶつ話声みたいのが聞こえる。

で2分くらいボケっと見てても、
全く映像が映らんから、音だけでもと思って大きくしたら、
日本語じゃない音が聞こえるんだ。

禁断のとかパッケージにかいてあるのに、
日本のビデオじゃないのかと思ってみてたら、
ふと、廃屋の部屋の中をビデオがよこ向いたままの映像が映った。
地面に置かれた上体で、部屋を写してる漢字だな。

人物とかはいないが、なんかしゃべってる音がする。

そんで、早送りしたら何か見えるかもと思い、
じーっと早送りしたら、カメラが蹴っ飛ばされたみたいに映像がぶっとんだ。
で、転がった先で、いきなり人の顔面のアップが写った

というか、右目だけが写った。

ここまでで、意味がわかったらすごいが、
けっとされたっぽい動きをしたカメラが転がった先に
人の顔があるってことは、その人の顔は地面に直接触れているってことだ。

10秒以上たっても、瞬きしない。

死んでるのかと思ったんだが、画像が止まってるらしいし、
音だけは聞こえるから画像が止まって音だけ吹き込んでる感じ。

つまり人間の目だけを取った映像に音だけを吹き込んだ?という意味不明な映像。

で、音がなんとなく鮮明に聞こえるようになってきたから
聞いてみたら、どうも田舎のなまりっぽいだけで日本語だった。

3分か、そのくらいほったらかしてたら、
その映像から「おい、おめえ」って呼びかける声だけがやけに鮮明に聞こえる。

ありゃ、映像とってる人に言ってるのかなとか
思ったら、「この映像みてるやつ、おめえだよ」 って俺に言ってるっぽい。

で、その後音が一切消えた。映像は相変わらず、目だけ映ってる。

と思ったら、いきなり画面に赤いものがぶっ掛けられたらしい。
ガラスを血みたいのが滴り落ちる。

そのまま待ってると、右目だけ写ってた人らしい人の髪をずるずると
廃屋の奥に引きずって行く人がいる。

で、突然画像が消えた。消え方も、スイッチ切った消し方じゃなく、
カメラを破壊したような終わり方だった。
そのあと早送りしても砂嵐になって何も写っていなかった。

こんなビデオが神保町に売ってました。
怖くて2度と見る気がしません。
で、引っ越しと同時になくなってしまいました。

今あったら、ようつべにでもアプすんのになあ

オチも何もないのに
思わせぶりに失礼しますた

エピローグ

14年も前に見たビデオの内容をやけに細かく覚えてると思っただろ。

なんか定期的に、夢というか
鮮明に思い出す瞬間があるんだよ。

アレは、映像が強烈だからとかそんなんだけじゃないと思う。

何かしらが意図的に
俺の意識に埋め込んでたりすんじゃないか?とか妄想したりするんだな。

以上 今も疲れ果ててネタ時とか
この映像見たときの俺をふいに思い出す。


忘れられない会話

これは俺が中学生の時の体験で
恐怖感はあまり無く、今でも思い出すと不思議な気持ちになります。

中学二年の二学期に、急性盲腸炎で緊急入院しました。定期テストの前だったのでよく覚えています。
明け方に腹痛を覚えてそのまま救急車で運ばれ、即日入院で手術に備えました。
手術は翌日に決まり、痛み止めを服用してその日は病室で横になっていました。
病室は6人用の大病室でしたが、入院患者は僕と、その隣の人しかいませんでした。
夕方、仕事を終えた母が着替えや身の回りのものを持って見舞いにやって来ました。
しばらく話をしていると、60歳くらいのお婆さんが病室に入ってきました。
隣の人のお見舞いのようでした。母が「これから一週間ほどですがお世話になります」
と挨拶すると、向こうも「若いですからすぐに元気になりますよ。こちらこそよろしく」
と微笑んでくれ、とても感じの良い人でした。
お婆さんは、隣の人のベッドのカーテンの中に入り1時間ほど話してから
帰っていきました。面会時間が終了して、母も家に帰りました。

その夜、僕は翌日の手術のことを考えて少し興奮し、すぐに眠れませんでした。
すると隣のカーテンの中から話し掛けられました。
「やぁ、この病室に入院してくる人は久しぶりだ、ここ何ヶ月か1人だったから退屈だったよ。
どうして来たんだい?」と聞かれました。声の感じから、どうやらさきほどの
お婆さんの旦那さんのようです。優しい声でした。
「盲腸です。今日の朝に急にお腹が痛くなってしまって・・・テストもあるんですけどね。」
などと、僕は学校のことや部活のことなども話しました。母が帰り心細かったので
話相手が欲しかったのもありますし、相手のお爺さんの声が優しかったのでスラスラと話せました。
お爺さんは笑いながら話を聞いてくれて
「若いというのはそれだけで素晴らしいね。大病で無くて良かったね。」と言ってくれました。
私は、悪いかとは思いましたがお爺さんにも入院理由を尋ねてみました。
「もう悪いところが多すぎて、何が悪いという訳でもないんだよ。寿命と言うには早いが
私は満足しているんだ。おそらくもう退院は出来ないだろうけれどね。」
と言いました。内蔵の病気を併発しているとのことで、確かに長く話しているとつらそうでした。
僕は、急に悲しくなって「そんなことはない、僕は先に退院するけれど、お見舞いにも来るし
いつか退院できますよ。」と言いました。自分が病気になってみて、どんなに心が弱るか
少しだけ分かった気がしていたので、元気づけられればと思ったからでした。

お爺さんは笑いながら僕にお礼を言ってくれました。
そして次の日、僕は手術をしました。全身麻酔だったのでその後の半日を
眠ったまま過ごしていました。目を覚ますともう夕方を過ぎており、ベッドの周りには
母と父が待っていました。あと1週間ほど入院して、経過が良好なら退院できると説明されました。
しかし気になったのは隣のお爺さんのベッドが空いていたことでした。病室移動かもしれないと
思い、その時は、退院する日に挨拶をしにいこうと思った程度でした。

経過は思ったより順調で、5日ほどで退院の日になりました。僕が入院道具を整理していたら
あのお婆さんがやって来ました。僕がお爺さんのことを聞こうと思いましたが
お婆さんが涙目なのに気がついてすこし動揺しました。するとお婆さんは
「あの人が手紙を書いていたのよ。渡すのが遅れてごめんなさいね。」と僕に手紙を
渡してくれました。そこには「最後の夜が1人でなくて良かった。ありがとう。元気に育ってください。」
そいうような内容が乱れた字で書いてありました。
話を聞くと、お爺さんは僕が手術をしていた日の午前中に容態が急変して、そのままお亡くなりになっていたそうです。
僕は泣きながら「僕もあの夜はお爺さんと話せて安心できました。心細かったけれどとても優しく話をしてくれた。」
とお婆さんに言いました。するとお婆さんは不思議そうな顔をして説明してくれました。

説明によると、お爺さんは喉の腫瘍を切り取る手術が上手くいかずに、声帯を傷つけてしまったために
話すことはもちろん、声を出すことはほとんど出来なかったらしいのです。
最後の手紙は、恐らく亡くなる前日の夜に、自分なりに死期を悟って書いたのだろうとのことでした。

今でも、あの夜にお爺さんと話したことを思い出します。あれはなんだったのでしょうか。
不思議だけれど、あの優しい声は忘れないと思います。


三つの選択

今日はエイプリルフールだ。特にすることもなかった僕らは、
いつものように僕の部屋に集まると適当にビールを飲み始めた。

今日はエイプリルフールだったので、退屈な僕らはひとつのゲームを思い付いた。嘘をつきながら喋る。
そしてそれを皆で聞いて酒の肴にする。
くだらないゲームだ。
だけど、そのくだらなさが良かった。

トップバッターは僕で、この夏ナンパした女が妊娠して実は今、一児の父なんだ、という話をした。
初めて知ったのだが、嘘をついてみろ、と言われた場合、人は100%の嘘をつくことはできない。
僕の場合、夏にナンパはしてないけど当時の彼女は妊娠したし、一児の父ではないけれど、
背中に水子は背負っている。
どいつがどんな嘘をついているかは、なかなか見抜けない。見抜けないからこそ、楽しい。
そうやって順繰りに嘘は進み、最後の奴にバトンが回った。
そいつは、ちびり、とビールを舐めると申し訳なさそうにこう言った。

「俺はみんなみたいに器用に嘘はつけないから、ひとつ、作り話をするよ」

「なんだよそれ。趣旨と違うじゃねえか」
「まあいいから聞けよ。退屈はさせないからさ」

そう言って姿勢を正した彼は、では、と呟いて話を始めた。
僕は朝起きて気付くと、何もない白い部屋にいた。
どうしてそこにいるのか、どうやってそこまで来たのかは全く覚えていない。
ただ、目を覚ましてみたら僕はそこにいた。
しばらく呆然としながら状況を把握できないままでいたんだけど、急に天井のあたりから声が響いた。

古いスピーカーだったんだろうね、ノイズがかった変な声だった。
声はこう言った。

『これから進む道は人生の道であり人間の業を歩む道。選択と苦悶と決断のみを与える。
歩く道は多くしてひとつ、決して矛盾を歩むことなく』

って。で、そこで初めて気付いたんだけど僕の背中の側にはドアがあったんだ。横に赤いべったりした文字で

『進め』
って書いてあった。

『3つ与えます。
ひとつ。右手のテレビを壊すこと。
ふたつ。左手の人を殺すこと。
みっつ。あなたが死ぬこと。

ひとつめを選べば、出口に近付きます。
あなたと左手の人は開放され、その代わり彼らは死にます。
ふたつめを選べば、出口に近付きます。
その代わり左手の人の道は終わりです。
みっつめを選べば、左手の人は開放され、おめでとう、
あなたの道は終わりです』

めちゃくちゃだよ。どれを選んでもあまりに救いがないじゃないか。
馬鹿らしい話だよ。でもその状況を馬鹿らしいなんて思うことはできなかった。
それどころか僕は恐怖でガタガタと震えた。
それくらいあそこの雰囲気は異様で、有無を言わせないものがあった。
そして僕は考えた。
どこかの見知らぬ多数の命か、すぐそばの見知らぬ一つの命か、一番近くのよく知る命か。
進まなければ確実に死ぬ。
それは『みっつめ』の選択になるんだろうか。嫌だ。
何も分からないまま死にたくはない。
一つの命か多くの命か?そんなものは、比べるまでもない。
寝袋の脇には、大振りの鉈があった。
僕は静かに鉈を手に取ると、ゆっくり振り上げ
動かない芋虫のような寝袋に向かって鉈を振り下ろした。
ぐちゃ。鈍い音が、感覚が、伝わる。
次のドアが開いた気配はない。もう一度鉈を振るう。
ぐちゃ。顔の見えない匿名性が罪悪感を麻痺させる。
もう一度鉈を振り上げたところで、かちゃり、と音がしてドアが開いた。
右手のテレビの画面からは、色のない瞳をした餓鬼がぎょろりとした眼でこちらを覗き返していた。
次の部屋に入ると、右手には客船の模型、左手には同じように寝袋があった。床にはやはり紙がおちてて、
そこにはこうあった。

『3つ与えます。

ひとつ。右手の客船を壊すこと。

ふたつ。左手の寝袋を燃やすこと。

みっつ。あなたが死ぬこと。

ひとつめを選べば、出口に近付きます。
あなたと左手の人は開放され、その代わり客船の乗客は死にます。

ふたつめを選べば、出口に近付きます。
その代わり左手の人の道は終わりです。

みっつめを選べば、左手の人は開放され、おめでとう、
あなたの道は終わりです』

客船はただの模型だった。
普通に考えれば、これを壊したら人が死ぬなんてあり得ない。
けどその時、その紙に書いてあることは絶対に本当なんだと思った。
理由なんてないよ。ただそう思ったんだ。
僕は、寝袋の脇にあった灯油を空になるまでふりかけて、用意されてあったマッチを擦って灯油へ放った。
ぼっ、という音がして寝袋はたちまち炎に包まれたよ。
僕は客船の前に立ち、模型をぼうっと眺めながら、鍵が開くのをまった。

2分くらい経った時かな、もう時間感覚なんかはなかったけど、人の死ぬ時間だからね 。たぶん2分くらいだろう。

かちゃ、という音がして次のドアが開いた。

左手の方がどうなっているのか、確認はしなかったし、したくなかった。

次の部屋に入ると、今度は右手に地球儀があり、左手にはまた寝袋があった。
僕は足早に紙切れを拾うと、そこにはこうあった。
『3つ与えます。

ひとつ。右手の地球儀を壊すこと。

ふたつ。左手の寝袋を撃ち抜くこと。

みっつ。あなたが死ぬこと。

ひとつめを選べば、出口に近付きます。
あなたと左手の人は開放され、その代わり世界のどこかに核が落ちます。

ふたつめを選べば、出口に近付きます。
その代わり左手の人の道は終わりです。

みっつめを選べば、左手の人は開放され、おめでとう、
あなたの道は終わりです』

思考や感情は、もはや完全に麻痺していた。
僕は半ば機械的に寝袋脇の拳銃を拾い撃鉄を起こすと、すぐさま人差し指に力を込めた。
ぱん、と乾いた音がした。ぱん、ぱん、ぱん、ぱん、ぱん。
リボルバー式の拳銃は6発で空になった。初めて扱った拳銃は、コンビニで買い物をするよりも手軽だったよ。

ドアに向かうと、鍵は既に開いていた。何発目で寝袋が死んだのかは知りたくもなかった。

最後の部屋は何もない部屋だった。
思わず僕はえっ、と声を洩らしたけど、ここは出口なのかもしれないと思うと少し安堵した。やっと出られる。そう思ってね。

すると再び頭の上から声が聞こえた『最後の問い。

3人の人間とそれを除いた全世界の人間。そして、君。
殺すとしたら、何を選ぶ』

僕は何も考えることなく、黙って今来た道を指差した。

するとまた、頭の上から声がした。

『おめでとう。
君は矛盾なく道を選ぶことができた。
人生とは選択の連続であり、匿名の幸福の裏には匿名の不幸があり、匿名の生のために匿名の死がある。
ひとつの命は地球よりも重くない。
君はそれを証明した。
しかしそれは決して命の重さを否定することではない。
最後に、ひとつひとつの命がどれだけ重いのかを感じてもらう。
出口は開いた。
おめでとう。

おめでとう。』

僕はぼうっとその声を聞いて、安心したような、虚脱したような感じを受けた。とにかく全身から一気に力が抜けて、フラフラになりながら最後のドアを開けた。

光の降り注ぐ眩しい部屋、目がくらみながら進むと、足にコツンと何かが当たった。

三つの遺影があった。

父と、母と、弟の遺影が。

これで、おしまい。

彼の話が終わった時、僕らは唾も飲み込めないくらい緊張していた。
こいつのこの話は何なんだろう。
得も言われぬ迫力は何なんだろう。
そこにいる誰もが、ぬらりとした気味の悪い感覚に囚われた。
僕は、ビールをグっと飲み干すと、勢いをつけてこう言った。
「……んな気味の悪い話はやめろよ!楽しく嘘の話をしよーぜ!ほら、お前もやっぱり何か嘘ついてみろよ!」
そういうと彼は、口角を釣り上げただけの不気味な笑みを見せた。
その表情に、体の底から身震いするような恐怖を覚えた。
そして、口を開いた
「もう、ついたよ」
「え?」

「『ひとつ、作り話をするよ』」

おわり


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