標本室

873 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:03/07/23 20:46
私は現在、ある地方大学医学部に在籍している者ですが、
オカルトではありませんが、医学部にはいろいろと不気味な場所が
存在します。そのなかの一つ、「法医学研究室第一標本室」のお話です。

私の住む地方には検視監制度がなく、いわゆる異状死体は全て大学の法医学
教室に搬送され、司法ないしは行政解剖が行われます。
それはそれは様々な異状死体が運び込まれてくるわけで、中には練磨の
法医学教室のメンバーでさえ目を覆いたくなるような無惨なものもあります。

これらの異状死体は証拠写真を撮影された後解剖され、遺族のもとに返される
わけですが、まれに、遺族からも引取りを拒否されたり、法医学・解剖学・
病理学上、大変興味深い異状死体が搬入されることがあります。

このような医学上珍重な(そして大変グロテスクな)標本の多くが収容されて
いるのが「法医学教室第一標本室」、通称「穴倉」です。

874 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:03/07/23 20:55
「穴倉」は地階の教室を数個ぶち抜いた非常に広い部屋です。
しかし広いには広いのですが、地階であるせいか、はたまた
建物が非常に古いせいか、隅々まで照明がいきわたっておらず、
昼間でも電気をフルにつけていないと足元がおぼつかないほどです。

しかし私自身を含め「穴倉」に始めてやってきた人間は、電気が
ついたとたん、非常に驚いてしまいます。なぜなら壁という壁には
異状死体の写真が隙間なく貼り付けられており(しかも多くが
フルカラー)、猟奇殺人鬼の隠れ家に迷い込んだような錯覚を覚える
からです。

876 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:03/07/23 21:05
それはもう、さながら「異状死体博覧会」の様相です。
轢死体、水死体、刺殺死体、撲殺死体、銃殺死体、事故死体、
病死体、自殺死体、感電死体…そこにはありとあらゆる「死」
の見本がそろっているのです。女性の中には冷や汗をかきだしたり、
デリケートな方は嘔吐されたり、中には貧血で倒れてしまう方も
おられます。男性もやはり、皆さん一様に驚きと、何ともいえない
ような表情を浮かべてしまうようです。

「穴倉」の不気味な所はここにとどまりません。私も未だになれずに
やむを得ずにうかがった際にはできるだけ見ないようにしている一角
があります。そこにはなんとおびただしい数の「縊死体のデスマスク」
があるのです。

878 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:03/07/23 21:18
昔、ある法医学者の方が「絞首刑にあった罪人の顔はみな一様であり、
もしかすると死体のデスマスクから犯罪を犯すような人間の顔の類型化
が可能なのでは。」とお考えになり、行政と協力なさってデスマスク
の収集を始められたそうです。

収集当初から「縊死体が同じような顔面になるのは、窒息とその後の
過程から当然である。」との反論が大勢だったのですが、その先生は
反論には一切耳を貸さず、ひたすら刑死人のデスマスクを全国から
集めて回ったそうです。その先生は平成になってからお亡くなりになり
ましたが、死の床に伏せられるまで、この主張を変えられなかったそうです。

このような経緯で、現在「穴倉」には表に出ているだけで十数体、研究棟のどこかには
まだ数十体のデスマスク標本が眠っているそうです。
やはりこのような標本があると、オカルト的な話が様々に沸いて出てくる
のですが、私はあまりそのような話は気にしないようにしています。

夜中にデスマスクの目が開く、涙を流す、断末魔の叫び声を上げる…
しかし噂は噂に過ぎず、法医学教室のメンバーでそのような経験を
したという話は聞きません。

879 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:03/07/23 21:29
ただ、「穴倉」にはまだまだ不気味な場所があり、
ふざけ半分で「開かずの間」などと呼ばれています。
大きな南京錠が二個かけられた、おそらく細長い部屋なのですが、
教授をはじめ誰も中をのぞいたことがないのはおろか、中に
何が収納されているのも知る人がいないのです。

過去に何度も開けようとする試みがあったらしいですが、
当人たちが尻込みしたのか、実際に開けてみたという話は聞きません。
しかももはや鍵そのものがどこかに失せてしまっているのです。

その部屋いつから「開かずの間」になったかと言うと、件の「先生」
が大学を退官なさってからだそうです。それまでは個人的な標本、
おそらくデスマスクを収納していたという話ですが…

来年、とうとうその研究棟も建替え工事が行われ、「穴倉」も
消えてしまいます。そのときあの部屋からは何がでてくるのでしょう?

医学部にはオカルトではありませんが不気味な場所がまだまだたくさん
あります。「穴倉」の話もその一つに過ぎません。
また機会があれば、お話できればと思います。スレ汚しの駄文、
失礼致しました。

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用水路

223 :1/3:03/06/03 21:43
俺が中学生の頃だから、随分昔の話だ。
当時はスキャン機材とか普及してなかったろうから、
(超音波スキャナ。妊娠中の検診で形質に異常があると、ナチュラルに堕胎を奨められるという)
俺の住んでた田舎では、奇妙な風貌の人をワリと良く見かけた。

俺の家から中学までの通学路に、鬱蒼と繁った木々に囲まれたボロアパートが建っていた。
そこはどうやら、奇妙な風貌の人達が住んでいる所らしかった。
中学では噂になっていたし、実際そこにいろんな人が入っていくのを、俺自身見かけていた。
そのアパートの道の脇には、用水路が流れていた。
幅は2m程度で、覆いも段差もなかった。道の脇にいきなり1m落差の用水路があったわけだ。
そのアパートの前を通るのは、正直気持ち悪かったが、
そこを通らないと、中学まで十分近く余計に歩かなければならなかった。
だから俺たち生徒は、仕方なくその道を使っていた。

中学に通い初めて最初の梅雨時分。その朝も雨が降っていた。
俺がちょうどそのアパート前の道を、中学へと向かっていた時、
反対側から、傘を差したオッサンが自転車で走ってきた。
そして、ゆるいカーブを曲がりきれずに、そのまま自転車ごと用水路に落っこちた。
その時、俺の周りには、同じ中学に通う生徒が沢山いた。
スーツ姿のオッサンが用水路にはまって、ヨロヨロ這い上がって来るんだ。
そりゃもう、揶揄嘲弄の声が飛びまくる。と、思った。
だが騒いでいるのは、俺たち一年だけのようだった。
二、三年の連中は、明らかに見てみぬフリをしていた。
良くある事故でつまらない、という風ではなかった。口元が強張っていた。
とにかく関わり合いになりたくない、そんな風で足早にその場を去っていった。
笑っていた俺たち一年の声に混じって、小さくギャヒヒヒヒィ~という耳障りな笑い声が聞こえた。
それは用水路向こうの、例のアパートから聞こえてきたようだった。

224 :2/3:03/06/03 21:44
俺たちの中学はいわゆるマンモス校で、一学年が七百人近くいた。
それだけいれば、中にはすごくかわいい女の子もいるわけだ。
学年ナンバーワンと評される彼女と、俺は同じクラスにいた。仮にN子としよう。

オッサンが用水路に落ちてから、一週間ぐらい経ったある日。
俺は例のアパート横へ続く道を通って、下校していた。
と、チリンチリンと自転車のベルが鳴り、
「工藤(俺)君、バイバーイ!」と、自転車に乗ったN子が俺を追い越していった。
N子は声もかわいらしかった。
そのままN子を見ていると、突然自転車が蛇行しはじめた。
そして大きく振れたかと思うと、用水路に自転車ごと落っこちた。
俺は慌てて駆け寄り、用水路からN子を引っ張りあげた。
N子はまるで目の焦点が合っていなかった。
俺が大丈夫かと尋ねると、「何だか落っこちた方が楽しいような気がして~」と、うわ言の様につぶやいた。
そこはアパートの真横だった。
木立の向こうから、またあの耳障りな笑い声が聞こえたような気がした。

俺はその後も、その道を通り続けた。
下校の時刻はまちまちだったが、少なくとも月に一度は、用水路に落ちる人を見かけた。
場所はだいたい、そのアパートの横に決まっていた。
俺が見ていない分も含めれば、かなりの人がそこで用水路に落ちていたはずだ。

N子とは二年でクラスが別になったが、頻繁に用水路に落ちていたようだった。
N子は自転車を止め徒歩にしても、用水路とは反対の大通りを通るバス通学にしても、
時々わざわざ、用水路に落っこちに行っていたようだった。
かわいらしかったN子は見る影もなく痩せて、陰気な風だった。
彼女のそばによると、用水路の生臭い臭いがした。
そして、誰もN子に関心を持たなかった。イジメすらなかった。
さすがに両親が心配したらしく、三年になる前にN子は転校していった。

225 :3/3:03/06/03 21:45
先日、弔事で久しぶりに田舎に帰った。
実家のある旧市街地は、すっかり寂れてしまっていた。

俺が田舎を離れている間に出来たのであろう、馴染みのない喫茶店で茶を飲んでいた時、ふと窓の外を見た。
道の向こうを、親子連れらしい3人が歩いていた。
男は脚を引きずるように歩いている。明らかに奇妙な風貌の人だった。
そして妻と思われる女は、流行遅れのセーターを着込んでいたが、かなり痩せていた。
そして生気のないその横顔に、N子の面影をみた。
子供もやはり奇妙な風貌だった。十歳ぐらいだと思うが、良く分からなかった。
一瞬、溶けたような顔をした子供と、目があったような気がした。

N子のその後やあのアパートの事を、地元の友達に聞いてみたが、皆一様に口が重かった。
明らかに忘れたがっているようだった。
アパートはずいぶん前に火災で焼失し、その後、用水路もコンクリートのふたで覆われているという。
N子が今どうしているかは、誰も知らなかった。

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鏡のないトイレ

もう、10年も前の、学生の頃の話ですが、投稿します。

私は、埼玉県のとある4年生の大学に通っていた男です。

外国語に強いその大学は、穏やかな校風で、部活に勉強にと、キャンパスライフを楽しんでいました。

『2棟のトイレに鏡が全くない理由を知っているかい?』

そんな質問を先輩からされたのは、2回生の校内合宿の時でした。

その大学の学部棟は6棟あり、確かにその2棟だけトイレに鏡がないのです。

先輩によると、鏡がない理由はもちろん、

『鏡越しに見えてしまう人が続出したから』とのことでした。

ほかにも『2棟の壁を上半身だけの女性がよじ登っていた』など、なぜか2棟だけそんな噂が数多くあるのです。

男女入り乱れての合宿での肝試しなんて、男にとっては、理想的な環境です。
さっそく、深夜の2棟を探検することになりました。

ミッションは、4棟の各階のトイレに入り、女の子に借りた手鏡で周囲を見回す、というのに決まりました。

スタートは、私のグループから。

深夜の校内は、もちろん気持ち悪くはありましたが、人数が4人もいたこともあり、恐れていたほどではありませんでした。

下の階から、順調にミッションをこなしていき、最後、4回のトイレでのミッションを終えてトイレを出て、あとは帰るだけだと、安堵した時でした。

階段を、降りていく途中で、妙なことが気になりました。

『あれ?足音的に、こんなに大人数だったかな?』

直後、最悪の事態が頭をよぎりました。

無理矢理に心を落ち着かせ、前を向いたまま、グループメンバーに自然な振りで声を掛けながら、降りていきます。

全員に声をかけ終わった後、みんながいたことに安堵して振り返りかけると、。。。

明らかに、もう一人の髪の長い人影が、最後尾を歩いていたメンバーのすぐ後ろに。
私のすぐ横にいた女子も、気が付いたようでした。

『逃げろ!!!』

叫んだ後は、よく覚えていません。
最後尾のメンバーの手を引き、階段を駆け下りたのだと思います。

当然、以降のグループは中止。

私と、一緒に見た女の子は、どうしてもその夜を学校で過ごすことができず、深夜のタクシーで帰宅しました。

直接的に、気持ち悪い話ではないのですが、その時は本当に怖かったため、投稿しました。

ちなみに今は、2棟は取り壊され、新しい建物に変わっています。

恐ろしかったですが、幽霊も楽しげな雰囲気に誘われてきてしまったのかなとも後で感じたその出来事は、同時に少し寂しくもある思い出です。

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声にならない叫び

398 :本当にあった怖い名無し:2010/04/23(金) 00:17:02 ID:hPRMHK6z0
怖い話かちょっと微妙だけど、小4か5の頃あった話。

小学生のころに、うちの家族はアパートに住んでいた。
で、そのアパートは壁が薄くて、隣の部屋の音が結構聞こえる。
隣のテレビの音も聞こえるし、たまーにギシアンしてる音も聞こえる事もあった。
また逆に友達と家で騒いでいると、隣の部屋に住んでる男が「うるさい!」と、怒鳴りこんでくる事も結構あった。
この隣の男、仮にA男としよう。
A男は今でいうDQN。昔で言うならチンピラっぽい男で、定職についていないのか、昼間に見かける事が多かった。
いつも不機嫌そうで、夜に隣から怒鳴り声や、喧嘩してる音が聞こえることも多かった。

399 :本当にあった怖い名無し:2010/04/23(金) 00:17:50 ID:hPRMHK6z0
俺はA男が嫌いだったし、(何度か理不尽に怒鳴られたり、絡まれたりしてた)
うちの両親も、A男が隣で騒ぐたびに、嫌な顔をしていたのはよく覚えてる。
ただ、うちの父も割と血の気が多いほうで、イライラが募ると隣に文句言いに行く事があり、
その度に怒鳴り合いになるから、ご近所には迷惑かけてたと思う。
ちなみに、A男が怒鳴ってる相手は、同居していた女性だった。

その人をまぁ、A子さんとしよう。A子さんは当時の俺目線だと、美人さんだった気がする。
A男とどういう関係だったのかは知らん。夫婦だったのかもしれないし、恋人同士だったのかもしれない。
ただ、A子さんはA男から暴力を受けてたらしく、顔に青あざがあったり、どっか怪我してることも多かった。
一度だけ、電話ボックスの中で座り込んでるA子さんを見たことがあったけど、
その時は何というか、雰囲気的に疲れ切ってるというか、ボロボロになってる感じがして、
子供の自分には話しかけることが出来なかった。

ちなみに部屋の配置は、A男の部屋が角部屋で、その隣がうちだったので、
主にA男の騒音の被害にあってたのは、うちだけだった。

400 :本当にあった怖い名無し:2010/04/23(金) 00:18:50 ID:hPRMHK6z0
あと、A子さんとうちの母はそこそこ交流があって、立ち話とかしていたんだが、
大体内容は、「あんな男と別れた方がいい」「警察に相談しよう」と母が言って、
A子さんが、「そんなことをすると何されるか分からない」みたいな事を言って、会話が堂々巡りしていた。

そして、あの日の夜がやってきた。
珍しく隣から怒鳴り声も、喧嘩する音も聞こえず、
早めに仕事から帰った両親と夕食食って、一家団欒していたんだけど、
突然外からドアをドン!と開ける音と、誰かが走りさる音が聞こえた。
何かあったのかとうちの親父が外に出ていき、暫くすると血相を変えて戻ってきて、「救急車呼べ!」と叫んだ。
救急車で運ばれたのはA子さんで、走り去っていったのはA男だった。

何故そんな事態になったのかは分からない。
両親は警察から事情を聞いたみたいだったが、俺には何も話してはくれなかった。
ただ、多分A男の暴力で、A子さんが非常に危険な状態に陥ってしまった事は、俺にも見当がついた。
幸いなことに、A子さんは病院に搬送されて、一命を取り留めた。

401 :本当にあった怖い名無し:2010/04/23(金) 00:19:35 ID:hPRMHK6z0
その後、母と一緒にA子さんの見舞いに行く事になった。母はとてもA子さんを心配していた。
ところが、だ。A子さんは俺たちの姿を見るなり、半狂乱になって暴れ出した。
暴れるってレベルじゃなかったかもしれん。
点滴の支える棒みたいな奴は倒れたし、お医者さんや看護婦さんたちが2、3人で必死に抑えつけていたから。
ただ俺が、多分母も一番ショックを受けたのは、A子さんのその様子ではなくて、叫んでたセリフだった。
「助けてくれって言ったのに助けてくれって言ったのに助けてくれって言ったのに」
ひたすらそう叫び続けていた。
そして俺達は、病室から看護婦さんに追い出された。

402 :本当にあった怖い名無し:2010/04/23(金) 00:20:36 ID:hPRMHK6z0
そう、よくよく考えれば、色々おかしいところはあったんだ。
なんであの日、隣の音が全く聞こえなかったのか。普段なら絶対に何か聞こえるはずなのに。
現にA男がドアを開ける音は聞こえたんだから。喧嘩してるなら、うちには一発で分かるはずなんだ。
A子さんがそうやって助けを求めたなら、聞こえないわけが絶対ない。
なのにどうしてあの日の夜は、何も聞こえなかったんだ?

その後、暫くしてうちは引っ越しした。
理由は簡単。
隣に誰もいなくなって、何も聞こえなくなった事が耐えられなくなって、
俺が突然泣き叫んだりするようになってしまったからだ。
多分、うちの親も精神的に限界だったのだとは思うけど。

403 :本当にあった怖い名無し:2010/04/23(金) 00:22:34 ID:hPRMHK6z0
ちなみに、ちょっとした後日談がある。
大学に入学して夏休みに帰省した時、記憶を確認したくてそのアパートまで行ったことがある。
アパートは改築されて、当時の面影は全く無くなっていた。
でも大家さんはまだまだ現役だったので、幸運な事に話を聞くことが出来た。
A子さんは退院した後、すぐにアパートから出て行ったらしい。A男は警察に捕まったとの事だった。
ただ大家さんは、その後にこう続けた。

「あの部屋の壁に血が付いちゃってさ。
 お巡りさんが言うには、ひどい事にA男がA子さんの頭掴んで、壁に何度か叩きつけたらしいよ。
 壁紙変えるのが大変だったよ」

怖くて、どっち側の壁だったのかは聞けなかった。

正直、子供だった俺が記憶を改竄して、何も聞こえなかったと思いこもうとしてるのかもしれない。
そうなるとうちの両親は、助けを無視した最低の人間だという事になるのだろうけど。
ただ、俺の記憶が正確で、あの夜に起こった事が本当ならば、
どうしてA子さんにとって最悪のタイミングで、何も聞こえなかったのか、
なんだか、人しれない悪意を感じてしまうんだ。

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妙な絵

私にはイラストレーターの友人がいる。
事務所でもある自宅で彼は仕事をしているのだが、彼は必ず机を部屋の真ん中に置いて作業している。
インテリア云々の話ではないらしい。

ある時、何となくその理由を尋ねた私に、彼はこんな話をした。

数ヶ月前は窓際に置いて作業していた彼。
その頃は特に忙しく連日徹夜も続き、睡眠不足の日々だったそうだ。
作業中にうっかり居眠りをしてしまう事も結構あったらしい。

そんなことばかり繰り返す中、異変は起きた。
深夜、作業中に居眠りをしてしまった時、
次に目覚めると、必ず机の上に妙な絵が置いてあるのだという。
ペンを握ったまま寝てしまうと、ペン先が遊んで線を引いてしまうというのはよくある事だが、最早そんなレベルではなく、
乱雑なものだが、確かに『何か』を見て描いているような絵だそうだ。

最初はさほど気にはとめなかったものの、そんな事が何回も続くとやはり段々気味悪くなってくるもので、
ある深夜に彼は、休憩の合間にその絵をじっくり観察してみることにした。
乱暴な線ではあるが、やはりただ偶然描いてしまったものにしては出来過ぎている気もする。
色々角度を変えて見ているうちに、もしかしてこれは人の顔なのではないかと思った。
そういう目で見てみると、確かに目や鼻、口らしきものがある様に見える。
しかし人の顔となると、こんな所に目があるのは変だ、鼻も歪んでいる。
きちんと画用紙を十字で区切っているわりには妙なデッサンだなと思った時、ふと彼は窓を見た。そして気が付いた。
ああ、これは窓を見ながら描いたのかな。十字線は窓の桟なのではないか…
ぼんやりと考えているうち、急に背筋に寒いものを感じた。
待てよ…冷えた頭で考える。
ここは2階だ。窓を見て描いたのなら、こんな所に人がいるのはおかしい。無論ベランダ等はない。
もう一度絵に視線を戻す。
一瞬のうちに恐怖に襲われた彼は、絵を丸めて捨てようとしたその時、
ガガガガガガガガガガガガガガ!!!!
驚いて顔を上げた彼の目に飛び込んできたのは、血塗れの顔面を窓に押し付けながら激しく窓を叩く女の姿だった。
そのズタズタの顔は、まさに絵とそっくりだったそうだ。
そこで彼は気を失った。

朝目覚めると、仕事そっちのけで近くのお寺に相談しに走ったらしい。
そこで絵をお焚き上げして貰ったそうで、
お寺の人に言われた通り窓に御札と塩を配置したら、ぴたりとあの絵は描かなくなったという。
それでもなんとなく窓際に向かうのが怖くなった彼は、机を今の場所に動かしてそこで作業する事にしたそうだ。

「これが理由だよ」と彼は苦笑いした。
結局あの女の正体は分からずじまいだったらしい。

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