Archive for 3月, 2012

集落

もう20年以上前、少年時代の話である。
俺は名は寅、友達は雄二と弘樹と仮名をつけておく

あれは小学校六年生の夏休み。俺達は近所の公園で毎日のように集まり、遊んでいた。
夕焼け空が真っ赤に染まりだした頃、「そろそろ帰ろうか」と弘樹が言い出す。
片親で家に帰っても一人ぼっちの雄二は、「もう少し遊ぼうや」と俺達2人を引き止める。
門限に厳しい弘樹は「ごめんな、また明日遊ぼうや!」と言い、帰って行く。
弘樹の姿が見えなくなると、決まって雄二は「あいつ毎回付き合い悪いのー」と愚痴りだす。
すっかり暗くなった公園には俺と雄二の2人きり。
雄二の話に適当に相槌を打つも、早く帰らねば俺も親に叱られる。
そんな俺の挙動が伝わったのか、雄二は少しイラついた顔をして、
「寅も帰りたいんやろ?帰ればいいやんか」と言い放つ。
少しムッとしたが、何時ものことだと自転車にまたがろうとすると、
「俺、こないだ廃屋みつけつたんよねぇ」雄二が言う。
どうせまた引き止めようと、興味を引こうとしてるんだと思い、
俺はあえて聞こえないふりをし、自転車を走らせようとすると、
「俺今夜、廃屋に探検しに行ってくるわ~」とさっきよりも大きな声で言った。
廃屋、探検、興味はあったが、親に怒られたくなかったので、
「雄二、お前もはよ家帰れよ~」と言って、家へ帰った。
どうせ一人で行く勇気もない癖に、とその時は思ってた。

家へ帰り、風呂に入り、晩飯を済ませた頃だった。ジリリリリンと電話が鳴る。
「もしもし」と電話に出ると、雄二の母親からであった。
『あんたんとこにうちの雄二いっとらんかね!?』
乱暴な言い方に軽くムカッときたが、
「雄二君なら、まだ公園で遊んでるかも」と言うと、ガチャっと電話を切られた。
雄二の母親にはムッときたが、雄二が帰宅してないと聞き少し心配だった。
雄二は少し悪ガキで、夜遅くまで遊んでいる事が多く、悪い連中と付き合いがあると噂されていた。

夜も十時をまわり、床に就くと遊び疲れか、すぐに眠ってしまった。

翌朝早朝、母親が血相を変えてたたき起こしに来た。
「雄二のお母さんから電話がかかって、昨日から家に帰ってないってさ!ここにいるんじゃないかって怒鳴り散らすんよ~」
またかよと思ったが、一晩も家に帰らないのは初めてだし、
本当に昨日言っていた廃屋へ探検しに行って、何かあったんじゃないかと心配になってきた。
弘樹に電話をして、事の経緯を話すと、弘樹の家にも同じ様な電話がかかったらしい。
取り合えずいつもの公園で待ち合わせをして、落ち合うことにした。

「雄二とはもう付き合うなって母ちゃんに言われて、大変だったよ」
弘樹が疲れた顔で言う。
「あいつの母ちゃん変わってるよな」と俺が言うと、
弘樹が「まあ、それも解る気がするわ・・・」と意味深な事を言った。
「???解る気がするって??」と俺が聞くと、
「あ、なんでもないよ。それより、雄二の行きそうな場所探さんと」

そして俺達はよく三人で遊んだ場所をぐるぐる回ったが、雄二は見つからなかった。

一旦公園へ戻り、水を飲み休憩していると、公園の横を雄二の母親が車で通りかかった。
俺達に気がついたのか、車のスピードを落としゆっくり通り過ぎていく。
雄二が帰ってこなかったせいか、充血した眼でギロっと俺達を睨みつけ去っていった。
心なしか、口元がぶつぶつ何かを言っているようにも見えた。
「おっかねぇな・・・」と弘樹が言った。
「・・・・はは・・・」
「そういえば寅さぁ、昨日俺が先に帰った後、雄二なんか言ってなかったんか?」
「ああああああ!!」
アホな俺は廃屋の話を弘樹に言われ思い出した。
昨日の会話を弘樹に伝えると、
「廃屋かぁ・・・多分あそこにあるやつやないかなぁ・・・」
弘樹は何か知っている風だった。
「弘樹、場所わかるんか?わかるんなら行って見ようや」と俺が言うと、
「う~ん・・あんまし行きたくない~・・」と弘樹がごねる。
煮え切らない弘樹に業を煮やして、
「お前、雄二が心配やないんか?はよ行くぞ!」

嫌がる弘樹に案内させ、自転車を漕ぐ事1時間。
道路も途中から舗装されてなく、砂利道に変わった。
「この集落の先にあるんやけど・・・」
たどり着いた場所は、川沿いの小さな集落だった。
「ここって・・・もしかして○○地区ってとこ??」
「・・・そうそう」
弘樹が嫌がった理由がわかった。
ここは絶対に近づいてはいけないと、親達にいつも言われている地区だった。
集落の家屋は、半分以上朽ち果てたようなものばかり。
歩いている人の身なりも煤け汚れていた。
数人の老人がこちらに気がつくと、足を止めてこちらを凝視してくる。
その眼はどれも荒んで、憎しみさえ感じられるほど強い視線。
よく見ると、日本の物ではない小さくボロボロな国旗が風に揺れていた。
「弘樹・・・例の廃屋ってのは、この地区の中にあるんか?」
「いや、確かこの地区の、少し先の山の中だったはず」と小さく答えた。
「そこへ行くには、この集落の中通らんと行けんのか?」
「・・・うん」
50メートル先では、数人の住民が俺達の事をじっと見ている。
恐ろしかったが友達も心配だ。
俺達は腹を決め、怪しまれない程度の速度で自転車を走らせる。
なるべく視線を合わせないよう進んでいく。

少し進んでいくと、数人の老人が地べたに横になっていた。
自転車で進む俺達に気がつくと、上体をむくっと起こして俺達の事を見ている。
見ない振りをしながら先へ進む。

集落を抜けた辺りで、弘樹の自転車が急に止まった。
そして転がり落ちるように道の端へ走りだした。
「おい、弘樹どうしたんか!?何してるん!?」
声をかけると、弘樹は急に道の端でげーげーと嘔吐した。
「大丈夫か??具合が悪くなったんか??」と背中をさすりながら声をかける。
すると弘樹が「寅・・・あそこ・・・」と涙目で指を差す。
弘樹の指差した場所には、たくさんの頭のない鶏が木に吊るされていた。
食べる為に血抜きをしているのか、地面には真っ赤な血の水溜りが出来ていた。
それを見た俺も思わず嘔吐してしまった。

慌ててその場を離れ、少し休憩しようと山に入り、人目につかない木陰に自転車を隠し、腰を下ろした。
「弘樹よぉ・・廃屋がここにあったとしてもよ、雄二の奴一人でこんな場所これるかな?」と言うと、
弘樹は少し俯き、小さな声で「これるよ」と言った。
「う~ん、俺なら絶対無理やな。うん、無理だ」
「寅よぉ、お前、知らんのか?」と不意に弘樹が言う。
「ん?何を?」
そう聞き返した時だった、数人の男が集落のあった方向から山へ入ってくるのが見えた。
「やばい、寅、隠れよう!」
俺達は木陰に身を低くし、様子を窺った。
大きなズタ袋を老人が数人で担ぎ、山を上がっていく。
老人達はニヤニヤしながら、俺達にはわからない言葉で会話している。
「あいつらなんて言ってるんだ??」
「それより寅、あいつら廃屋の方へ行っとるかも・・・」
仕方なく俺達は、びくびくしつつも老人達と距離をとって後をつけた。

しばらく進むとバラック小屋のような建物が見えてきた。
「寅、あれが例の廃屋だよ」と弘樹が言う。
「そういえばずっと気になっとったんやけどさ、弘樹はなんでここ知ってるん?」と俺が聞くと、
「ん?ああ、お前とは六年になってから仲良うなったよな。
 俺は雄二とは三年の頃から友達での、いっぺんだけ来た事があるんよ」
「はは、お前等、俺の知らんとこで色々冒険しとるねぇ」
「冒険っちゅうかの、雄二のだな・・・う~ん、やっぱやめとくわ」
「何々??気になるやんか、教えれよ!」
「そのうちわかる事やけん、気にすんな」
そんな会話をしていると、男達は廃屋の中へ入っていった。
弘樹に促され、ゆっくりと廃屋へ近づいていく。
物音を立てないように廃屋の裏手にまわった。
裏手にまわると、廃屋の中からの声が聞こえてくる。
日本語ではない言葉で、大勢の男達が怒号のような声を上げ騒がしい。
「寅、こっちに窓がある」
先に進んだ弘樹が手招きしている。
近づき、煤けたガラス越しに中の様子が少しだけ見える。
さっき見かけた老人がいる。
部屋の中央へ向き、拳を振り上げ何か言っている。
「くそぉ、弘樹、肝心な所が見えん・・・」
「う~ん、何をしとるんやろうか・・もうちょっと中の様子が見える場所探すけん、寅はここにおってくれ」
そう言って弘樹は身をかがめ、廃屋の別の窓を探しに進んだ。
時折廃屋の中から大きな声がドッと上がるたびにドキっとする。

しばらく覗いていると、「あっ!」と弘樹の声が聞こえた。
一瞬廃屋の中が静かになったが、気付かれなかったのか、またざわざわと騒ぎ出した。
俺は弘樹の声がした場所へゆっくりと近づく。
弘樹は尻餅をつきガクガクと振るえており、涙を流していた。
中にいる連中に気付かれない様に小さな声で、「弘樹、どうしたんか?大丈夫か?」と尋ねると、
弘樹はぶんぶんと首を横に振り、声を殺し泣いている。
震える弘樹の肩をぽんと叩き、廃屋を覗いてみる。
先程と同じ様に煤けた硝子窓があり、中を覗いてみると、何かを取り囲むように男達が座っていた。
どの男達も部屋の中央を見て騒いでいる。
ゲラゲラ笑っているものもいれば、怒鳴り散らすように怒号を上げているものもいる。
不気味な光景に鳥肌がぶわっと立った。
男達の視線の先には丸く囲まれた柵があり、その中から羽毛の様なものが舞い上がっている。
柵の中がよく見えなかったので、足元にあった切株に乗り背伸びをしてみると、そこには雄二がいた。
衣服は脱がされ、口と両腕両足を縛られ、顔には殴られた後があった。
木の杭のようなものにくくられており、身動きがとれない状況になっていて、
雄二の周りには、鶏のようだが鶏より遥かに大きな鳥が暴れていた。
よく見ると大きな鳥の脚に短い刃物が縛ってあり、雄二は脇腹の辺りから出血し、痙攣していた。
あまりのショックと恐怖に身動きが取れず、ガタガタ震えていると、
正気を取り戻したのか、弘樹が俺の手をぐっと引っ張った。
「逃げよう」
弘樹に促され、震える身体を奮い立たせ、その場から離れた。

自転車を隠してある場所まで戻り、少しでも早くこの場を去ろうと俺達は突走った。
途中、例の集落を通ったが、皆廃屋へ行っているのかもぬけの殻だった。
地元まではどんなに飛ばしても1時間近くかかるが、田舎の為に駐在所も少なく、俺達は必死に自転車を走らせた。

やっとの思いで地元へ帰り、俺達は見てきた事をぐしゃぐしゃに泣きながら親達に話した。
母親は「あんた達、あそこへ行ったんか!?あんた達死にたいんか!?」と涙を流しながら怒鳴った。
父親が警察へ通報し、少しすると数台のパトカーが家の前を走っていく。
その中の一台に、雄二の母親が乗っているのが見えた。
通り過ぎる瞬間、雄二の母親は俺と弘樹をじっと睨みつけていた。氷の様に冷たい眼で。
目の前を通り過ぎても振り返り睨み続けていた。
その目は、あの集落で見た目つきにそっくりだった。

弘樹を父親の車で送り、「また明日な」と声をかけると、弘樹は少しだけ笑って見せた。

弘樹を無事に送り届け家へ帰ると、親戚やばあちゃんまで来て俺は叱られた。
そして父親が俺に言った。
「寅、お前はまだ子供で難しい事はわからんと思うが、聞いてくれ」
俺は黙って頷いた。
「今日お前達が言った場所はな、日本であって日本じゃねーんだ。
 道路も舗装されとらん、電柱も立ってねぇ。
 住んどるもんをみたか?みんなまともな格好はしとらんかったやろう?
 そんな土地に、頑なにいつまでん住んじょる。そして、“こっち側”の人間を遠ざけとるんや。
 あの地区には、わしらとは全く違う文化や風習があるんよ。
 あの地区の連中からすりゃ、わしらは敵に見えるようや。
 わしらはいつだって、“こっち側”へ迎え入れる準備はしとる。
 学校へもちゃんと通えるし、仕事だってある。
 あの地区から“こっち側”へ来て、普通に生活しとるもんもたくさんおるんよ。お前の友達の雄二んとこもそうや。
 ただ中には、出て行ったもんは裏切り者なんて、捻くれた感情を持つもんもあそこにはおる。
 きっと雄二は、小さい頃から遊んどった場所やけん、安心して遊んでたつもりなんやろうけど、
 一部の捻くれもんに、眼をつけられてしもうたんやろうな。
 んで今回、雄二が酷い目にあったのはお前達のせいだと、雄二の母ちゃんは言いよる。
 お前達が遊んでやらんから、余所者扱いするから、あそこへ行ってしまったと思い込んどるんよ。
 考え方が変わっとるっちゅうか、被害妄想っちゅうかの、捻くれとるんじゃの。
 まぁ寅も弘樹も気にせんでもいい事や。
 ただ、子供だけであの土地へ行くことはもう許さんぞ」

それだけ言うと、父親は仏間で横になり寝てしまった。
俺も昼間の疲れからか、布団に入った瞬間寝てしまった。

翌日、弘樹といつもの公園で待ち合わせた。
昨日の事はお互い言わず、なんとなく一日公園にいた。
夕焼け空が真っ赤に染まる頃、俺達は帰路へついた。

そして夏休みが終り新学期になり、雄二が転校した事を知った。
先生に行き先を聞いたが、家庭の事情だからと教えてもらえなかった。

そして、いつの間にか十年の時が経ち、大人になった俺達はあの土地へ行ってみた。
そこにはあの朽ち果てた集落はなく、
県道が走り、廃屋のあった山にはトンネルが通り、街へ出る主要道路として使われている。

あの集落の住人達は、一体何処へ行ったのだろう。
あの日見た荒んだ目は、今でもどこかで“こっち側”を睨みつけているのだろうか・・・


夢が現実になった

小学三年の夏。
ちょうど夏休みの始まり位だったかな?に夢を見ました。

永遠と続く(そこまで大きい建物ではなかった)螺旋階段状の建物。
窓とかは無く、全ての階が吹き抜けになっていて、上を見上げれば空が見える感じ。
そこを母親と楽しく登っていた。
てっぺんに着くと、いつの間にか母親の姿がなく、不安になりチョロチョロ探し回る。
ふと外を見ると、ずっと続く一本道を母親が歩いていた。
私は急いで階段を下り始める。
しかし、いつまでたっても下が見えない。
横の壁の穴から母親に「待って!置いてかないで!」と泣き叫ぶと、
母親は立ち止まりニッコリ笑って、また歩きだした。
私は一生懸命階段を下りているが、母親の姿がしだいに遠く小さくなっていく。
母親の姿が見えなくなった時、私は足を止めその場に泣き崩れた。

そして目を覚ますと、枕は涙でぐしょぐしょになっている。
この夢を五回程見た気がする。

そして、夏休み中旬、真夜中に母親が出て行った。
母親が居ないのに気付いたのは翌朝だった。
一週間たっても帰ってこない…
夢が現実になったのだと思った。

そして10年経った今でも、母親の消息はつかめていません。


富士の樹海

事業に失敗し、負債を抱えてしまった。
決して返せない額ではなかったが、すっかり気力を無くし、死に場所を求めて富士の樹海をさ迷っていた。

何時間も歩き続けて、いつの間にか夜になっていた。
ふと、人の声が聞こえた。
周りを見ると、ぼんやりとした人影達がそこかしこにいた。
不思議と怖いとは思わなかった。
ただ漠然と『こんなに居るのか…』とは思った。

相変わらず周りからはボソボソと声が聞こえる。
最初は何を言っているのか分からなかったが、徐々にはっきりと聞こえるようになった。
「止めておけ」「引き返した方がいい」「何もこんな所で死ぬことはない」
すると足元に違和感を感じた。
見てみると、腐敗した死体を踏んでいた。
死体の頭がこちらの方を振り向いた。
「分かるでしょう?ここは人の死ぬ場所じゃない。
 死んだ所で何処にもいけない。ずっと此処から出られない。
 正直、後悔しているわ…」
もはや性別すら分からなくなった死体は、女性の声でそう言った。

その後の事はよく覚えていない。
気がついたら樹海の外にいた。
あれが現実だったのかは判らない。

「ただあの後、もう一度やり直す事は出来た」
そう言って、父は私の頭を撫でてくれました。


看護婦の幽霊

440 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:02/08/22 19:53
ある中学校で体育館に看護婦の幽霊が出るという噂があり、好奇心旺盛な仲良し五人組が
噂を確かめるために夜の学校に行くことにしました。その学校は体育館と校舎が渡り廊下で
つながっていて、体育館に入るには校舎を通らなければならなかったのですが、非常口が常に開いていた
ので、五人はそこから暗い校舎へはいりました。
体育館の前まで来ると、体育館のドアはわずかに開いていて中からは、
「ガラガラガラガラガラ」
とものすごい音がしました。五人はとても怖かったので勢いで中に入ることにしました。
中に入ると
「ガラガラガラガラガラガラ」
というものすごい音を立てて、髪を振り乱した看護婦がこの世のものとは思えない
スピードで円を描きながら乳母車を押していました。 つづく

445 名前:440 投稿日:02/08/22 20:09
五人の存在に気がついた看護婦はピタリととまり、五人のほうにゆっくりとふりかえりました。五人は恐怖のあまり
一目散に逃げ出しました。しかし、看護婦はものすごい速さで追いかけてきました。後ろを振り返る余裕がなくとも乳母車の「ガラガラ」という音で
後ろから追いかけてくる看護婦の速さがわかりました。
パニックに陥っていた五人は仲間のことまで気がまわらず、五人のうち二人は非常口へ、あと二人は正面玄関へ、そして残りの一人はあまりの恐怖に
判断力を失い、階段をのぼって二階へと逃げました。 つづく

459 名前:440 投稿日:02/08/22 20:42
うまく外に逃げ出した四人は仲間の無事を確認することなくばらばらに自宅へ逃げ帰りました。
学校に残された一人は、暗い学校の長い廊下を全速力で走っていました。看護婦は、階段までも乳母車を押したままのぼって
きたのです。二人の距離はだんだん縮まっているように感じられました。逃げ場を失ったその中学生は目の前にあったトイレに
逃げ込みました。左から二番目の個室です。その個室の中でひざを抱え、震えていると看護婦の乳母車の音がだんだんちかづいてきます。
そして、トイレの入り口まで来ただろうと思われた時に
「ガラガラ、ガラガラ、ガラガラ」
と今までとはちょっと違ったリズムの音がしました。
中学生にもそれが、<看護婦が、トイレの入り口あたりを往復している音だ>
ということがすぐにわかりました。しばらくすると、看護婦はトイレの中に入ってきて、右から順番に「コンコン」とドアをノックし、
「ギィィィィ」とゆっくりドアを開けては「ここにはいない・・・」
と呟くのでした。自分の個室に近くなるにつれ中学生の恐怖心は膨れ上がり、今にも失神しそうでした。しかし、いざ左から二番目の個室の番になると
今まで起きていたことが夢であったかのように何の物音もしなくなりました。ノックの音も乳母車の音もしないのです。
「助かった」と胸をなでおろした中学生でしたが恐怖心が完全に消えるわけもなく、もうしばらくトイレにいることにしました。
長い時間が過ぎ、あたりは少し明るくなり、やっとトイレからでる決心がついた中学生はゆっくりとたち上がりドアノブに手をかけました。
すると、目の前に長い糸のようなものが・・・。ゆっくりと顔を上げると、看護婦が長い髪を垂らしてドアの上から中学生をじっとみていたそうです。
長くてごめんなさい


金魚鉢

当時まだ1才だった娘を連れて夏祭りに行った時の話です。

屋台を見ていると金魚すくいがありました。
娘にも何か生き物に触れて欲しいと思い、何回か失敗しながら1匹の金魚を取って帰ったのです。

金魚鉢に入れて部屋に置くと、娘は珍しいのか近寄っていって中を眺めています。
まだ言葉を話せないのに金魚と合わせて口をパクパクさせて、まるで会話している様でした。
かわいいなと思っていた途端、何故か娘が火がついたように泣き出したのです。
赤ん坊ですからよくあることなんですが、いくらあやしてもなかなか泣き止まず、理由もわかりません。
その日から娘は、絶対に金魚に近づかなくなりました。
無理に近くに連れて行っても、泣き出して離れてしまうのです。

特に気にも留めていなかったのですが、ある午後、
娘の昼寝中に部屋で一人ぼーっとしていた時、ふと金魚と娘のことが気にとまりました。
この金魚、何か変なところでもあるのかしら?
そう思って、金魚鉢を覗き込んだんですが、金魚はただ口をパクパクさせるだけ。
かわいいものだと見つめていたその時、何気なく部屋の電気で反射して金魚鉢に映ったものを見て、
私は全身の毛が総毛だつのがわかりました。
そこには私の顔と部屋の景色と、それから、私の右肩から覗く知らない男の人の顔が映っていたのです。
そして何より驚いたのは、
鉢の中の金魚のパクパクという口の動きと、その男の人の口の動きがまったく同じだったこと。

あの金魚は一体なんだったのか。
金魚鉢に映った男の人は誰だったのか。
近くの川に金魚を放してからもう5年たちますが、未だに金魚を見るとあの男性の顔を思い出します。


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