これは友人の家での話、昼下がりの休日、俺の友人Eが応接間でうたたねしちゃってた時の話。

ふっと、本当にふっと意識が戻ってきた、いつもの自宅、いつもの休日の昼下がり。

でも何かが違う気が・・・する。

ふっと半分だけ開いた目にぬいぐるみが映った、試供品か何かを配る時に一緒に配布されてきたぬいぐるみ・・・。
ぬいぐるみの手がばたばた、ぐるぐると動いている。
ぬいぐるみが動いてらー、これは夢だなー、もうちょっと寝よう・・・。
そのまま静かに眠りに落ちていく、そして目を覚ました。

(んん??変な夢を見たなぁ・・・、ぬいぐるみが動くなんて。)

応接間の奥、今まで惰眠を貪っていたソファーの正面にある棚においてあるぬいぐるみを眺めた、そして手に取ってみた。
やっぱりただの安物のぬいぐるみだった、別になにか仕掛けがあるわけでもないただのぬいぐるみ。
俺はそれを元の棚に戻しつつ、変な夢を見た今夜友達に話してやろう、と思った。

それから数日後の夜、友人数人を迎えて妹とお袋とダベっていた。

「そういえばこないだの休みさぁ、応接間で寝てたら変な夢見ちゃったよ。」

ああ、言ってたね、と友人。
どんな夢なのと妹が突っ込む。
棚のぬいぐるみが動いてたことを告げると。

「あ、あたしも見たよ?」

え?いや、それは俺の夢であって、・・・え?

「先週かな、夜中にトイレに行きたくなって何気なく応接間の前を通ったの、そしたら扉が隙間あいててさ。」

固まる俺と友人。

「中を覗いてみたの、そしたらぬいぐるみの手が動いてたよ。」

神妙な面持ちで話を聞いていたお袋、そこに口を挟んできた。

「あぁ、あたしも見たよ」

そんな事があるはずがない!
俺が見たのは夢だし、きっと皆がたまたま同じ夢を見たのに違いない!
安物っぽいけど結構可愛いし、動いたらいいって願望がきっとみんなにあったんだ!

そこに妹がトドメを刺してくれた・・・。

「夢じゃないよ、だってあたしぬいぐるみの前に手をやったら、両腕で挟んできたもん!」
「そのあと、ちゃんとCDダビングしてから寝たし、間違いないよ。」

・・・言葉が見つからない、ぬいぐるみ云々もそうだけど、そこに手を挟ませてみる妹ってどうよ?
ちょっと途方にくれる。
友達もぽかーんとした顔で妹を見ている。

「きっとあれ、●●ちゃんだよ、皆に会いに来たんだと思う」

俺ははっとした。
そう、俺達には生まれてすぐ亡くなってしまった弟がいた。
そういえば今週が命日だ、お袋もどうやら同じふうに思っていたらしい。

「そっかー、そうかもしれないなー」

・・・俺は夢だ、とは思う。
でもそういう偶然があるのかもしれない、でも今週は今は亡き弟にケーキでも買って帰ってやろうと思った。