Archive for 1月, 2011

ヤットキヅイタネ

死ぬほど洒落にならないほど怖い話かは分からない。
けど今現在俺にとっては間違いなく洒落になっていない。そういう話なんだけど。
あんまり長くはないと思う。だれにも相談とかしてなくて怖いからちょっと聞いて欲しい。

誰かに見られていると感じている時っていうのは、ほんとに誰かが見ている、そんな話を聞いたことある人も多いと思う。
例えば髪を洗っている時とか、パソコンで怖い話を読んでふと気配を感じたりとか。
俺もオカ板を覗いている人間の例にもれず、怖がりながらもいつかは霊とか見てみたいって思ってた。
でも霊感なんて今まで自分にあるとか思ったこともないし、実際変なものを見たことなんて一度もなかったのね。

で、そんな俺でも見られていると感じることがある。そこに目をつけてみた。
何をしたかっていうと、見られているんじゃないかって感じた時には、自分の周りの360度くまなく眺めまわしてみたわけ。
それこそ髪洗っているときもすぐ中断して風呂のなかを隅から隅まで。パソコン中に後ろ振り向けなくなったような時も無理やり部屋の中と窓の外をできるだけ。
要は自分のことを見れる位置を全部見て、目を合わせたいって心理だったんだ。

それを1週間くらい続けた頃かな。何にも見えないし怖いし不毛だからそろそろやめようって思った。
そんな時、深夜にまたパソコンで怖い話読んで、ぞくっとして鳥肌たって、習慣となった霊さがしをする。
やっぱり霊はいなかった。でもその時は、いつも見ないものが目に入った。
俺は普段リビングでパソコンを使う。家族が寝てからね。で、そこからちょうど見える場所に大きめの鏡が置いてある。姿見っていうのかな。

その中から見られていた。
考えてみればずっと見てたのかな。俺も霊感ないながらに見ちゃいけないものは見ない、という本能みたいなものが働いて、。鏡の中は見ないようにしてたのかも。
驚いたけど声はでなかった。鏡の中でその人は「やっと気づいた」とでも言いたげな笑みを浮かべ、こちらを見続けているようだった。
だった、というのは、僕はその時怖くて目を離してしまったから。
その日から今夜で3日ほど経つ。怖くて2度と見たくないと思っていたが、1回見てしまうと、見たことがない状態には戻れないようだった。
今日は初めて1日に2回、目が合った。これから増えていくのかと考えると頭がおかしくなりそう。お祓いといった方がいいかな。怖い。

皆さんも俺みたいに軽い気持ちで霊を探したりなさらぬよう。


存在しない本

僕の友人に、古美術商を営んでいる人がいる。坂の途中に店があるから、通称坂さん。
友人といっても歳は10歳以上離れているし、月に2、3回会うか会わないかといった程度だから、
僕は彼については、名前と職業とあるひとつの厄介な趣味以外は殆ど知らない。

それで彼の趣味というのが、まぁ予想はついていると思うがオカルトで、
そもそもそれが高じて古美術の名を借りた魔術道具まがいの店を始めたらしい。
おかげで彼の店はいつ行っても不気味な雰囲気が漂っていた。
自称武久夢二の絵なんかも飾ってあるのだけど、明らかに逆効果になってたし。
ある日、彼から電話がかかってきた。凄い物を仕入れたから見に来いと言うのだ。
丁度試験明けで暇だったので、僕は学校帰りに彼の店を訪ねることにした。

彼は年期の入ったレジスターに肘をつき、テレビでワイドショーを見ていた。
「坂さん、こんにちは」
声をかけると、日に当たらないせいで真っ白な顔がこっちを向いた。
「ああ、いらっしゃい」
客商売にまるきり向いていない無愛想な声で坂さんは答えた。
「そこら、適当に座り」
僕が店の空いているスペースに適当に座ると、坂さんはレジスターの下の金庫から一冊の本を取り出した。
古ぼけた洋書だった。日に焼け、虫食いやよく分からないシミがところどころについていた。
金文字のタイトルは読めなかった。
「なんすか、これ?」
「水神クタアト」
「……なんすか、それ」
坂さんの答えに、僕はもう一回同じ質問をした。
坂さんはつまらなそうに説明してくれた。
「ラヴクラフトが小説ん中で言及した魔導書……いや、ラムレイやったかなぁ。
とにかく、現実には存在せん本やね」
「は?じゃあこれは?」
「どっかのマニアが自分で作った同人誌みたいなもんやと思う」
ほら、と坂さんが見せてくれた本のページは真っ白だった。

「装丁作ったんはええけど、内容が分からんかったんやろね。全ページ白紙やったわ」
確かに、おしまいまでページをめくってみたが全く何も書かれていなかった。
一体これのどこが「凄い物」なのか。落胆する僕を見て、坂さんは笑った。
「以上が前の持ち主の説明。そんでこっからが、僕の説明。
なぁ、その本、やたら紙が分厚いと思わん?」
確かに、一ページ一ページがまるでボール紙のように奇妙に分厚かった。
坂さんは僕から本を取り返すと、初めの方の一ページを破った。
そして呆気に取られている僕を尻目に、イカの皮でも剥ぐみたいに、破ったページを剥いだ。
やったことある人なら分かると思うけど、段ボールとかお菓子の箱の紙とか、
薄い紙を何枚も重ねてあるような紙を一枚一枚剥く、あんな感じで。
ただ違ったのは、ページは元々大きな一枚の紙だったものを折って重ねた物だったということだ。
だから坂さんの行為は「剥ぐ」より「開く」の方が正しいのだろう。
開いた中――折り畳まれていた内側を、坂さんは僕に見せてくれた。

くすんだ赤色で書かれた筆記体の文章と、訳の分からない図。
読み取れるものは何一つ無い筈なのに、目にした瞬間に強烈な不快感が体を襲った。
これは見ちゃいけないものだ。本能が僕に訴えかけた。
必死で目を反らした僕を笑い、坂さんは紙をひらひらと動かした。
「反魂の秘術――らしい。ラテン語やからよう読めんかったけどね。
インクに血が混ざっとるみたいやし、少なくとも書いた本人は本気やったんやろ」
君の反応からしたら本物っぽいわ、と嬉しげな坂さんの声を聞きながら、僕はただただ早く帰りたかった。

さて、これだけでも僕にとっては気持ち悪い話なのだけど、実は後日談がある。

本を見せてもらってから一週間ほど経ったある日の朝、また坂さんから電話がかかってきた。
すぐに来いと言われたので、学校をサボって僕は店に行った。
まず最初に感じた異変は臭いだった。坂さんの店に近付くに連れて、魚が腐ったような強烈な臭いがするのだ。
店はもっと酷かった。
引き戸のガラスが割られ、店内は滅茶苦茶に荒らされていた。
自称武久夢二の絵も破かれていたし、テレビは画面が割れてブラウン菅が見えていた。
おまけにバケツでもひっくり返したかのように、店中が濡れていた。
坂さんは相変わらずレジスターに肘をついて、動かないテレビを眺めていた。
僕に気付くと、坂さんはバケツと雑巾を引っ張り出してきて、僕は片付けを手伝わされた。
そのために呼ばれたらしかった。
「なにがあったんすか!?」
「泥棒」
落ち着き払った様子の坂さんに、僕はそれ以上何も聞かなかった。
何が盗まれたのか見当はついたし、誰が盗んだのかは、
床といわず壁といわずこびりついている魚の鱗を見れば、考える気も失せた。
代わりに、壁を雑巾で拭きながら、「意外と早くバレてもうたなぁ」と呟く坂さんとの付き合い方を、少し本気で考えた。


メモと子供

つい先日の話。

うちは競売にかけられた不動産の調査を請け負ってる会社なんだけど、
こないだ前任者が急に会社に来なくなったとかなんだかで、
やりかけの物件が俺に廻ってきた。
まぁ正直うちの会社は、とある筋の人から頼まれた”訳あり物件”を取り扱うような
ダーティなとこなもんで、こういうことはしょっちゅうだからたいして気にもとめず、
前任者が途中まで作った調査資料(きたねーメモ書き)持って、
遠路はるばるクソ田舎までやって来たわけですよ。

その物件はかなり古い建物らしく、壁とか床とかボロボロであちこちにヒビが入ってたり、
湿っぽい匂いがしたりで、相当テンション下がってたんだけど、
まぁとにかく仕事だからってことで気合入れ直してせっせと調査を始めたわけですわ。

1時間くらい経った頃かな、ふと窓から外を見ると一人の子供が向こうを向いて
しゃがみこんでなにやら遊んでるのに気づいた。
よそ様の庭で何勝手に遊んでんの?って注意しようかと思ったんだけど、
ぶっちゃけ気味が悪かったんだよね、その子。
なんか覇気がないというか微動だにしないというか、一見すると人形っぽいんだけど
しゃがんでる人形なんてありえないし、でもとにかく人って感じがしなかった。
クソ田舎だけあって辺りはありえない位に静まり返ってるし、
正直少し怖くなったってのもある。
建物の老朽化具合からみて3年はほったらかしになってる感じだったので、
そりゃ子供の遊び場にもなるわなと思い直し、「今日は遊んでも良し!」と勝手に判断してあげた。
ひとんちだけど。

んでしばらくは何事もなく仕事を続けてたんだけど、前任者のメモの隅の方に、
・台所がおかしい
って書いてあった。調査資料はその書き込みのほとんどが数字(部屋の寸法等)なので
そういう文章が書いてあることにかなり違和感を感じた。
で気になって台所の方へ行ってみると、床が湿ってる以外は特におかしそうなところはなかった。
でも向こうの部屋の奥にある姿見っていうの?全身映る大きな鏡に子供の体が少しだけ映ってた。
暗くて良くわかんなかったけど間違いない、さっきの子供だ。

そうか、入ってきちゃったんだな。とぼんやり考えてたけど、ほんと気味悪いんだよねそいつ。
物音1つたてないし、辺りは静かすぎるし、おまけに古い家の独特の匂いとかに
やられちゃってなんか気持ち悪くなってきた。
座敷童子とか思い出したりしちゃって。
もうその子を見に行く勇気とかもなくて、とりあえず隣にある風呂場の調査をしよう
というかそこへ逃げ込んだというか、まぁ逃げたんだけど。

風呂場は風呂場でまたひどかった。多分カビのせいだろうけどきな臭い匂いと
むせ返るような息苦しさがあった。
こりゃ長居はできんなと思ってメモを見ると、風呂場は一通り計測されてて安心した。
ただその下に、
・風呂場やばい
って書いてあった。普段なら「なにそれ(笑)」ってな感じだったんだろうけど、
その時の俺は明らかに動揺していた。
メモの筆跡が書き始めの頃と比べてどんどんひどくなってきてたから。
震えるように波打っちゃってて、もうすでにほとんど読めない。
えーっと前任者はなんで会社に来なくなったんだっけ?病欠だったっけ?
必死に思い出そうとしてふと周りを見ると、閉めた記憶もないのに風呂場の扉が
閉まってるし、扉のすりガラスのところに人影が立ってるのが見えた。

さっきの子供だろうか?
色々考えてたら、そのうちすりガラスの人影がものすごい勢いで動き始めた。
なんていうか踊り狂ってる感じ?頭を上下左右に振ったり手足をバタバタさせたり
くねくね動いたり。でも床を踏みしめる音は一切なし。めちゃ静か。
人影だけがすごい勢いでうごめいてる。

もう足がすくんでうまく歩けないんだよね。手がぶるぶる震えるの。
だって尋常じゃないんだから、その動きが。人間の動きじゃない。

とは言えこのままここでじっとしてる訳にもいかない、かといって扉を開ける
勇気もなかったので、そこにあった小さな窓から逃げようとじっと窓を見てた。
レバーを引くと手前に傾く感じで開く窓だったので、開放部分が狭く、
はたして大人の体が通るかどうか。
しばらく悩んでたんだけど、ひょっとしてと思ってメモを見てみた。
なんか対策が書いてあるかもと期待してたんだけど、やっぱりほとんど読めないし、
かろうじて読めた1行が、

・顔がない

だった。誰の?
そのときその窓にうっすらと子供の姿が映った。気がした。多分真後ろに立ってる。
いつの間に入ったんだよ。
相変わらずなんの音も立てないんだな、この子は。
もう逃げられない。意を決して俺は後ろを振り返る。
そこには…、なぜか誰もいなかった。

会社に帰った後に気づいたんだけど、そのメモの日付が3年前だった。
この物件を俺に振ってきた上司にそのことを言うと、
「あれおかしいな、もう終わったやつだよこれ」
って言ってそのまま向こうへ行こうとしたんで、すぐに腕をつかんで詳細を聞いた。

なんでも顔がぐしゃぐしゃに潰れた子供の霊が出るというヘビーな物件で、
当時の担当者がそのことを提出資料に書いたもんだからクライアントが
「そんな資料はいらん」と言ってつき返してきたといういわくつきの物件だそうだ。
清書された書類を見ると確かに「顔がない」とか「風呂場やばい」とか書いてあったw

まぁこういった幽霊物件は時々あるらしく、出ることがわかった場合は
備考欄にさりげなくそのことを書くのが通例になってるそうだ。
他の幽霊物件の書類も見せてもらったが、なるほどきちんと明記してあった。

なんで今頃こんなものが出てきたんでしょうかね?と上司に聞いたら、
「んー、まだ取り憑かれてるんじゃないかな。当時の担当者って俺だし」


卵の中

432 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:2001/06/08(金) 14:57
知り合いの、警察関係者に聞いた話です。
去年、この近くであったバラバラ殺人事件、覚えてますか?
若い女性の部屋で、男のバラバラ死体がみつかったってやつ。その話です。
ああ、別にスプラッタな話しようってわけじゃありません。状況はそうですけど(笑)。
その女性、仮に英子さんとしておきます、と、男の人は、一樹さんということで話進めますね。
2人はそれぞれの母親が幼なじみだったので、やっぱり幼なじみってことになりますかね。
小中高と学校が同じで、高校1年の時、一樹さんの友人の坂木さんと彼女がつきあいはじめました。
そうして、3人そろって同じ大学に進学して半年目に、坂木さんが亡くなりました。
デート中に、ダムに落ちたんです。
2人きりの時で、落ちた目撃者もいなかったんですが、それは結局事故として扱われました。
英子さんが、ショックでかなり精神的にやられてしまって、事情聴取とかできなかったせいもあったようですけど。
彼女は家から1歩も出なくなって、大学も退学。
風呂とかトイレとか食事とか、最低限の日常生活に支障はないけど、会話は成り立たないし、無理に何かさせようとすると大声をあげて暴れ出したりする。
父親は病院にかかることを許さず、それでいて英子さんのいる2階へは近づこうとしない。
出歩かないせいか太って体格の良くなっていく英子さんに母親の手だけでは負えない時が出てきて、一樹さんが世話を手伝うようになったんです。

433 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:2001/06/08(金) 14:59
英子さんは、以前から手先が器用で細かい手芸を得意としていたそうで、家に閉じこもるようになってからは、いつも卵細工をつくっていたそうです。
卵に穴をあけて中身を抜いてよく洗って、細かい布きれをボンドで張り付ける。それに紐をつけて、カーテンレールに吊す。
カーテンが閉められなくなるので、それをお母さんが毎日、部屋の天井に移して画鋲で留める。
部屋の天井が、いろんな柄の卵に埋め尽くされていきました。
そんなある日、お母さんは英子さんの妊娠に気づきました
そして、一樹さんのお母さんに真っ先に相談しました。
お母さんから話を聞いた一樹さんは、家を飛び出して友人の家を泊まり歩くようになりました。
英子さんを妊娠させたのは、一樹さんだったんです。
ある日、友人の1人がたびたび泊まりに来る一樹さんからその話を聞き出しました。
彼は、その話をしてすぐ、やっぱりちゃんと責任をとらなくてはいけない、けじめをつける、と言い置いて友人宅を出て行きました。
けれど、それが、生きている彼を見た最後の証言となったのです。
翌日、彼は英子さんの部屋で、バラバラにされてみつかりました。
みつけたのは、英子さんのお母さんでした。はじめ、それが何かわからなかったそうです。
部屋の隅では、英子さんが眠っていました。
そして、部屋中に、天井にぶら下げていたはずの卵の殻が落ちていたんです。
ひどい臭いがしていたそうです。けれど、英子さんはすやすやと眠っていたし、臭いの元も見あたらなかった。
お母さんは、英子さんに女性の毎月の行事が始まったためだろうと見当をつけました。血の臭いに似ていたからです。
妊娠じゃなかったんだとほっとして、とりあえず空気を入れ替えようと思っても、床には一面、割れて崩れた丸い殻。布にくるまれた何百もの卵。

434 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:2001/06/08(金) 15:00
お母さんは窓への道をつくろうと足で卵をよけようとして、その異様な重さに驚きました。
動かしたひょうしに強くなった異臭。その重さの妙な感じ。
恐る恐るしゃがみこんで近くのそれらを観察して、彼女は布切れの間からのぞく赤黒いモノに気づきました。
昔、大怪我をした時に見た開いた傷口そっくりの色。
お母さんは悲鳴を上げて、でも、お父さんは1階にいたけれど、声もかけてきませんでした。
お母さんは気持ち悪いのを我慢して足で重たい卵をよけて英子さんのところまで行き、無理矢理起こして部屋から連れ出しました。
英子さんは嫌がって卵を踏みつぶしたりしましたが、火事場の馬鹿力が作用したのか、小柄なお母さんが英子さんを部屋から引きずり出し、1階へ下ろしました
英子さんの姿に、お父さんはそっぽを向いて寝室に引っ込んでしまいました。
お母さんは1人でやっとのこと英子さんを居間に落ち着かせ、それから、警察に電話をかけました。
もちろん、お母さんは卵の中身が何かわかっていませんでした。けれど、近所の人が蛇が出たと行って110番しておまわりさんを呼んだことがあったので、それよりは重大時だと思ってかけたのだそうです。
やってきたおまわりさんは、英子さんに踏みつぶされた卵の中に、人間の目玉をみつけました。そこから、大騒ぎになったのです。
もうおわかりだと思いますが、卵の中身は一樹さんでした。
彼が、何百、千に近いくらい細かくバラバラにされて、卵の殻の中に納められていたのです。
DNA鑑定で、彼だと確認されました。遺体の多くに、生体反応が認められました。
彼は、生きたままバラバラにされたのです。しかも、刃物を使われた痕跡は見あたらない。引きちぎられ、折られ粉々にされていたんです。

435 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:2001/06/08(金) 15:00
そのバラバラのかけらが、ご丁寧にも卵の殻の中に納められ、布切れで飾られていたんです。
英子さんからはなんの証言も得られませんでした。ご両親もなんの物音も聞いていませんでした。
結局、英子さんが無理矢理妊娠させられたことを恨んで一樹さんを殺したのだろうということになりました。
けれど、不可解な点が多くあります。警察も未だその謎を解いていません。というより、解く気もありません。
卵の殻にあけられた穴より大きな骨片が、どうやって中に納められたのか。
どれも穴を布でふさがれていたのに、前日の晩に彼が目撃されている。たった一晩の作業とはとても思えないこと。
そして、粉々に引き裂かれた現場が、どこにもみつからなかったこと。
何より、道具なしに人力で人を引き裂くことができるのか。それも粉々に。できるわけがない。
英子さんは、今は精神病院にいるそうです。
おなかの子供がその後どうなったのかは聞いていません。

一樹さんが何にどのようにして殺され、いかなる方法で卵の中に入れられたのか。
解答はありません。


見える彼女

4年くらい前になるかな。
親の世話になるのが何となく嫌で、大阪で安いアパートを借りて住んでた。
この頃は霊なんて全く信じてなかったし、怖いとも思っていなかった。

大阪で初めて付き合った彼女の家が、お祓いしてくれるようなところで、その頃から霊が見えるようになったらしい。
梅田で彼女とデート中の時、彼女が奥の席の方にいる男を見ていた。

俺「知り合い?」
彼女「見えるの?」
俺「は?」

男の方を見ると、立ち上がってこちらに向ってきた。
表情はよくわからんかった。

彼女「見ちゃダメ!」
俺「なんで?」

その男は俺を通り抜けて壁に消えていった。

俺「さっきのって幽霊?」
彼女「そうよ、今日帰りにうちの家よっていこうね」
俺「なんで?」
彼女「お祓いしないとね」

と言って彼女が笑ってた。

その日の帰りに彼女の家に行ってお祓いしてもらった。
おばさん曰く、彼女と一緒にいることで霊に対する感度があがっているのではないか?との事だった。

それから結構霊体験をするようになったのだが、これはその一つです。
電車に乗ってる時の事なのですが、ヤンキーみたいなのが目の前に座っていた。

俺「ね?あれも霊?」
彼女「うん、あんま見てるとまたとりつかれるよ」

彼の足首に手が憑いていたのである。
彼女は笑っていたが、俺は取り合えず見ないように心掛けていた。

そのヤンキー君とたまたま降りる駅が同じだった。

俺「ちょっと教えてくる」
彼女「やめときなって!」
俺「大丈夫、大丈夫~」

彼女が止めたのだが、たぶん俺は霊が見えるようになった事に浮かれていたらしい。

俺「おい、ちょ、待って!」
ヤンキー「は?」
俺「君、足に手が憑いてるよ」
ヤンキー「はぁ!?」
俺「いや、だから足に手が憑いてるって!」
ヤンキー「馬鹿じゃねーの?アホちゃうか!」

何も言えなかった。
そりゃあそうだ。
彼には見えてないのだから。

彼女「だからやめとけっていったのに」

と言って彼女はまた笑ってた。

俺「あの人って、どうなるの?」
彼女「たぶん、いつか階段から落ちるかするんじゃない?」

真顔の彼女が少し怖かった。


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