私が小学3年生のとき、剣道の先輩(大学生)がそのバイトしました。
ある病院の地下にホルマリンのプールがありまして、身元不明の変死体なんかを、漬
けてありました。首にナンバープレート付けてあるそうです。
バイトの内容は浮かんで来た死体を竿で突ついて沈めるという単調なものです。
丸一日で、当時のサラリーマンの月給分ぐらいの支給があったのですが、これ、人数
割りなんです。
お金に困っていた先輩はひとりでやると申し出ました。
病院側が「それは無茶だ」と難色を示したのですが、先輩は強引に押し切りました。
後日、その先輩に話を聞いたら一日で止めたと言います。
臭いが取れないと顔をしかめます。
「でもな、それだけじゃねぇんだ。ラジオと本持ち込んだんだけど、まず、ラジオがい
かれた。チューニングがおかしくなって、雑音に声が混じるんだ」
先輩はラジオを消し、うつらうつらしながら、定期的に浮いてくる死体を突ついてい
ました。
そのうち、先輩は奇妙なことに気付きました。
死体が浮かぶ感覚が短くなってます。
それに、普通は尻か腹から、浮かんで来るのに、頭から浮いて来るのです。そして、
浮いてくるのはいつも同じ死体です。中年の小太りで刺青の入った死体だったそうで
す。
そのことに気付いて、流石の先輩も慄然としました。
そのとき、件の死体が先輩の足元に頭からニョッと浮き上がりました。ガスで膨らん
だ青白い顔、白濁した眼球が出目金のようになっています。死体は先輩を見つめたよう
に見えました。
「グヘヘ・・・って笑いやがった」
交代が来るまで先輩は笑う死体を突つき続けたそうです。
「二度とやんねぇ・・・」
そう呟いていました。