初めまして。
早速 体験談を載せますが、これは今年の三月頃に書いて、記録していたものです。

 ふと、大学に入ってから気付いた事があった。
 大学の講義やバイト、或いは友人との約束もない休日というのは、案外と暇なものであ
る。高校時代は部活や塾などで時間を取られることが多かったからか、それは余計に感じ
ることだった。最近では、それにかこつけて昼前まで寝る堕落ぶりを見せている。
 そんな偶の休日、私は散々読み返した小説を読んでいた。ぱらぱらと何気なく頁を捲り、
「展開は当然知っているし、飽きてきたなあ」などと欠伸を噛み殺していると、なにやら
視界の隅っこで黒い物体が動いているのに気付いた。
 襖に張り付いているようなのだが、それが妙な動き方で、少し動いては止まり、また動
き始めるといった虫のような奴だった。心なしか、その黒い物体の周囲が蠢いているよう
にも見える。
 だが正直な話、虫とは考えたくない。ゴキブリ等ならば、どんなに綺麗な家庭にも居る
ものだが、さすがにここまで堂々としていないだろう。それにもし虫であるならば大きさ
が異常だ。目算(とは言え、横目で見ているから不確かだが)で、15cmほどはあるの
だから、もし虫であったら私も大暴れするしかない。
 しかしこのままでは埒が明かない。「虫じゃあ、ありませんように」などと、完全に怖
気付きながらも、ぱっとそちらを振り返ったのだが、
(何もいないじゃないか)
 と、肩透かしを食らってしまった。先ほどまでは確かに居たように思えた「黒い物体」
は、その影も形も残していなかった。すこし穴の開いた襖が閉じられているだけである。
あまりにも唐突な喪失であって、気持ち悪かったが、追求しても矢張り怖いので、私は特
に何事もなかったかのように別の本を読み始めた。わざとらしく、「次はこっちでも読む
かなあ」と声をあげたのも、今思えば可笑しなことである。

それから30分ほど経ってか、黙々と頁をめくっていると、先の黒い物体がまたも視界
の隅に現れたのだ。やはり虫のように蠢き、確かな存在感がある。
 今度はすぐさま振り返ったが、やはり何も居ない。それがその日だけでも3回はあった
と記憶している。
 目の具合か、それとも頭でもおかしくなったのか。前者ならば不安だけですむが、正直、
この手の話はまず後者を疑われるものだ。それに精神的なものだろうから、外傷判断も付
かない。幸いなことに、目の方はコンタクトの定期検査で、眼科の診断を受ける機会があ
ったのだが、さしたる問題は無かった。ならば残る可能性は後者なのだが、それは考えな
いようにしようと思う。鼬ごっこになるのは目に見えているのだ。
 そうして何日か過ごしている内に、やはり襖に黒い物体が蠢くことが時々だがあった。
もう前ほどに気にしなくなり、「またか」程度に流せるようになった。
 しかしそれが逆に災いした。先日気付いたのだが、冷静に横目で観察してみると、その
黒い物体が、虫ではなく「髪」のような気がしてきたのである。
 横目で襖を見てはいけない。私の部屋のタブーである。

以上です。
最近は、それほど見かけないのでホッとしています。