国道5号線の小樽方面へ向かう、とある緩やかなカーブは事故が多い。
それは霊的なものというわけではなく、国道で90キロ100キロ出すのが普通という北海道の交通事情とブラックアイスバーンによるものだ。
数年前の話になるが、そのカーブで友人がスリップ事故を起こしている。
歩道側に乗り上げたが夜間ということもあり幸い人身被害はなく、後続車と若干接触してリアに凹み傷をつけた程度で済んだ。
その友人が言うには事故当時、カーブに差し掛かったところで異様なものを見つけて、それに気を取られて事故を起こしたらしい。
カーブの路側帯に沿って何人もの人が列を成していた、というのだ。その人たちは揃って車道側を向き手招きのような仕草をしていたらしい。
そこで亡くなった人たちが仲間を増やそうとしてる系の話か、と私が言うと友人は違うと言った。
その手招きの行列も妙だったが、友人が気を取られたものは別のものだったのだ。
手招きの行列より上、歩道より奥の山のあたりに女性が立っていたという。
その場所に立っているということはつまり空中であり、なによりとんでもない巨人ということになる。
友人が言うには写真で人物だけ切り取って、山の辺りに貼り付けたように見えたという。
友人は手招きの集団ではなく、その女が“引っ張った”んじゃないか、と話していた。
それからしばらく後のことだ。私が深夜に同じカーブを通ったときのことである。
友人の話を思い出した私は速度を落としながら路側帯に目をやった。驚いたことに友人が言っていたような行列が目に入った。
ただ違うのは、彼らは誰一人として手招きなどしていなかった。そして山のほうに立つ女も居なかった。
表情はなくただこちらをじっと見つめているような気がした。
カーブはそれほど長いものではなかったが、すごく長い時間を走っていたように思う。
嫌な感じを受けつつも結局、私は何事もなくカーブを抜けた。
しかしその瞬間だった。
カーブの終端と同時に途切れていた行列、その最後尾。そこに真っ黒な服の女が立っていて、すれ違いざまに“にや”っと笑ったのだ。
なぜかその女の顔だけはっきりと見えたように思えた。
そして、あっと思った次にはリアのタイヤからぎゅるん、という空回りする音がして、私の車は逆向きになって滑り、歩道側面の石壁に接触していた。
まずいな、と思って顔を上げると、そこには行列も女の姿もなかった。
ただ一言。
「またか」
と女の声がどこかから聞こえた。
幸いなことに人通りも他の車もなく、単独事故で済んだが、駆けつけた警官に前方不注意で咎められ「スタッドレス変えたばっかり?下手したら死んでたよ」と言われた。
あれからその行列も女も見ていない。あれがなんだったのかもわからないままだ。ただ、その後も時折そこで事故の話を聞く。