これかい?

夜遅く帰ると
「あれ 今帰ってきたの?」
と 母が言った。
そうだと答えると
「ふうん。」
と 首をひねってから私に背を向けた。
何か合点がいかないようだった。
多少気になったものの飯を食べ終わる頃には、
そんな事 忘れてしまった。

何日か後。
夜遅く帰ると
「あれ 今帰ってきたの?」
と 母が言った。
そうだと答えると
「ふうん。」
と 首をひねってから私に背を向けた。
何か合点がいかないようだった。

そしてある秋。
夜 居間でくつろいでいた私は 頭上から聞こえる微かな音に気付き
天井に目を向けた。
台所に居た母が炊事の手を止めた。
「音と気配」が二階の部屋を ややゆっくりと歩き回っていた。
きちんと 人間の体重が乗った音。

「・・・これかい?」
と 私は尋ね
「・・・そう これ。」
と 母は答えた。

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青年兵士

ベトナム戦争から家に帰る前夜、青年兵士は自宅に電話した。
「明日帰るんだけど、他に行くところがない友達を連れて帰りたいんだ。
家で一緒に住んでもいいかな?」
息子の帰還報告に狂喜した両親は、勿論!と泣きながら答えた。
「でも、一つだけ言っておきたいことがあるんだ。
彼は地雷を踏んでね、腕と足を失ってしまったんだよ。
でも、僕は彼を家に連れて帰りたいんだ。」
その台詞に、両親は押し黙ってしまった。
「数日ならいいけれど、障害者の世話は大変よ。
家にいる間に、そのお友達が住める所を一緒に探しましょう。
あなたにも私たちにも自分達の人生があるのだから、
そのお友達 の世話に一生縛られるなんて無理よ。」
やっとのことで母親がそれだけ言うと、息子は黙って電話を切った。

翌日、警察から電話があり、青年兵士の両親は
彼がビルの屋上から飛び降りて死んだことを知らされた。

死体と対面した両親は絶句し、泣き崩れた。

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ベッドの下

ある女の子が、両親の留守に一晩夜を明かすことになった。
彼女は用心のために家中の窓という窓にしっかりと施錠していったが、一つだけどうしてもかぎをかけられない小さな窓があった。
どうしようかと少し悩んだが、小さな窓だったし、愛犬も一緒にいることだし大丈夫だろうと思って、そのままにしておいた。

しかし、夜半に何かぴちゃぴちゃと水の滴るような音がするのに気がついて、彼女は目を覚ました。
何が起こっているのか不安だったが、結局それを確かめに行く勇気はなかった。
その代わりにベッドの下で寝ている愛犬のほうに手を伸ばすと、手を舐め返してきた。
そのことを確認して一心地つき、彼女は再び眠りについた。

翌朝彼女は、リビングで首を掻ききられ、天井からつるされている愛犬の姿を発見した。
水の滴るような音は、犬の傷口から流れ出た血が床を打つ音だった。

そして、愛犬がいたはずのベッドの下からは一枚の紙切れが見つかった。

『人間だって舐めるんだよ』

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今日の夕飯なに?

少年が小学校から帰宅。

「ただいま」
少年はランドセルを自室に置くと、リビングへ直行した。
台所では、トントントンと包丁を叩く音が響いていた。

少年は16:00~19:00までビデオゲームをしていた。
覚えている限り、少年は2度トイレへ行き、
ゲームの攻略法を聞きに、台所前の廊下(玄関から続く)にある
電話の子機を取りにリビングを離れた。
ちなみにゲームをしていた時刻は概算ではあるが、少年はほぼ間違いないと言っている。

「お母さん、今日の夕飯なに?」
少年はテレビに目を向けたまま、母親にたずねた。
母親は料理の準備をしているのか、返事もせず包丁で叩き続けていた。
少年は母親はあまり機嫌がよくないと思い、無視されても気にしなかった。

ゲームに飽きた少年はテレビ番組を見つつ、19:35あたりに風呂に入ろうとした。
風呂釜には水も張っておらず、文句を言おうとしたがやめたという。

風呂がわきテレビを見るのをやめ、20:00ほどに少年は風呂に入った。
風呂場で遊びながら、少年は空腹を感じたという。

風呂からあがって上半身裸のまま、少年は台所へ向かう。
「お母さん、晩ご飯まだ?」
少年はそのとき、初めて違和感に気づいたという。
「……おばさん、誰?」

本官が近隣住民からの通報で駆けつけたとき、少年と女性は向き合っていた。
女性は目を見開き、口をいっぱいに開いて痙攣させながら笑っていた。
その間も手は包丁を叩き続け、キャベツは二つに割れていたままだった。

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慣れたから

おれの住んでるアパートはかなり古くて、隣の声が丸聞こえだ。
今夜も、隣に住んでる一家の団欒の声が聞こえてくる。

「○○ちゃん、お口にケチャップが付いてるわよ。
ほらほら、また食べこぼしてる。
○○くんは、今日はたくさん食べたのねえ、えらいわぁ。
さすがはお兄ちゃんね」

楽しそうな声が洩れ聞こえる中、おれは一人でコンビニ弁当を食ってる。
もう、慣れたからね。平気だよ。

おばさんの声しか、聞こえてこないことぐらい。

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