東北某県の山奥にある実家にまだ住んでいた頃の話なんだけど。
その地域では俺の一族が大地主だったらしく、祖父に対して近所の連中がぺこぺこしてるというなんとも嫌な感じで、正直俺は余り実家のことが好きじゃなかった。
んでそんな俺の実家には蔵がある。家宝が云々とか言われているけどなんのことはなく、ようは他方からの貢物を収めている。
そんな中でひときわ大切にされている玉があった。用途は一切不明、黒ずんだ金属(何の金属かはわからん)製らしき玉で、模様装飾その他は一切なし。
振るとカラカラ言った(子供の頃振って祖父に血を吐くほど殴られた)。
なんなのかよくわからなかったけど、ただ「最も大事な物、絶対に触るな」とだけ言われてきた。
絶対に触るなって言っても別に呪いがどうこうではなく、祖父曰く「孫が入っておる。いつ生まれるかわからんから刺激はするな」とのこと。
どうやらその家の主に代々伝わる話があるらしく、それに関係しているらしい。
俺の父親は知っていたが俺はまだ知らなかったので、気味が悪いとは思っていたが別にどうすることもなかった。
後で父親に聞いた話だと「孫」っていうのはその地域の土着神みたいなもの。
普通土着神っていうのはその地域に住んでいるものだけど、「孫」は特別で、村が出来て人が住んでから他方の神様を持ってきたんだと。
その連れてきた人間っていうのが家の家系の1代目ってわけだ。
何故「孫」っていうのか、何故変な玉に入っているのか、生まれるってどういう事かとか、そういうことはわからんとのこと。
そして去年の夏に心臓発作で祖父が死んだ。
俺と父親は家を出てきていたので当然家を継ぐことはなく、つまりはこれで家主はいなくなるわけだ。で祖父の葬式のために実家に帰った。
俺はふとあの玉が気になって(言っちゃうと家を出てからずっと気になってた)蔵に行ってみた。
そしたらあの玉が割れていた。綺麗に真っ二つ。しかも割れてはじめてわかったんだがその玉はどうやら木製。裏側に木目があって表面はなんかの塗料だったらしい。
当然そんな重いもんでもなく持ってみると軽い。しかし子供の頃こっそり持ったあれは確かに金属の重さだった。
つまり「孫」には結構な重さがあったってこと。なんだかぞっとして俺はその蔵から逃げ出した。
葬式を終えて今の家に帰ってから半年ほどして、あの村で人死にが大量に出たと聞いた。
あっちでは呪いやら祟りやら言っていたが、俺はなんとなくそれは違うような気がする。だって家主が死んですぐ「孫」が生まれるなんておかしいから。
俺は「ああ、祖父で足りたんだなあ」と思った。
一体あの玉から何が生まれてしまったのかは知らない。でもまあ、もう俺はあそこには帰らないから知る必要もないかと思っている。
<追記>
俺は「孫」は神様なんかじゃなく、人の命を吸って成長する化け物だと思っています。根拠はないですが。
それで祖父の命を吸ったことによって生まれることが出来るくらい成長したんだなあと。
おそらく生まれた「孫」はまだあの近辺に住み着いていると思います。
まだ人死には出ているらしいので。