事業に失敗し、負債を抱えてしまった。
決して返せない額ではなかったが、すっかり気力を無くし、死に場所を求めて富士の樹海をさ迷っていた。
何時間も歩き続けて、いつの間にか夜になっていた。
ふと、人の声が聞こえた。
周りを見ると、ぼんやりとした人影達がそこかしこにいた。
不思議と怖いとは思わなかった。
ただ漠然と『こんなに居るのか…』とは思った。
相変わらず周りからはボソボソと声が聞こえる。
最初は何を言っているのか分からなかったが、徐々にはっきりと聞こえるようになった。
「止めておけ」「引き返した方がいい」「何もこんな所で死ぬことはない」
すると足元に違和感を感じた。
見てみると、腐敗した死体を踏んでいた。
死体の頭がこちらの方を振り向いた。
「分かるでしょう?ここは人の死ぬ場所じゃない。
死んだ所で何処にもいけない。ずっと此処から出られない。
正直、後悔しているわ…」
もはや性別すら分からなくなった死体は、女性の声でそう言った。
その後の事はよく覚えていない。
気がついたら樹海の外にいた。
あれが現実だったのかは判らない。
「ただあの後、もう一度やり直す事は出来た」
そう言って、父は私の頭を撫でてくれました。