『私、お宅の旦那と寝たわ!!』
そう電話がかかってきたのは、私が夕飯の買い物から帰ってきた時だった。
『私、お宅の旦那と寝たわ!!』
私は無言で電話を切った。
あの女…そう、主人の浮気相手。主人の部下のあの女だ。
電話のそばにあった鏡にふと目がいく。
家事がやりやすいように短く切った髪、マイホームの為にと節約して何年も着続けているトレーナー。
そこには生活に疲れた中年女が立っていた。
あの女は髪を茶色く染め、綺麗にカールしていた。流行の服を着ていた。
動揺している時間はない。私は学校から帰ってくる子ども達の為に夕食を作り始めた。
次の日もまた次の日も、あの女から電話がかかってくる。
『私、お宅の旦那と寝たわ!!』
その度に私は無言で電話を切る。
なんで!?どうして!?そんなに私を苦しめたいの?
私と子ども達から主人を奪った泥棒猫のクセに!
ふと手を見ると、毎日の水仕事でガサガサに荒れた指が目についた。
あの女は爪を伸ばし、ネールアートをしていた。
…憎い
あの女が憎い
あ、洗濯物とりこまなくちゃ。
『私、お宅の旦那と寝たわ!!』
あれから毎日あの女から電話がかかってくる。
どうして愛人は自分の存在を本妻に知らせたがるのだろう…。本当にバカな女だ。
あんたなんかに言われなくても主人が浮気していた事なんてとっくにお見通しだったのよ。妻の勘を馬鹿にしないでよ!
『私、お宅の旦那と寝たわ!!』
『私、お宅の旦那と寝たわ!!』
『私、お宅の旦那と寝たわ!!』
毎日毎日もう電話してくるのはやめて!
何で電話してくるの?
1週間も電話が続くと、さすがの私ももう限界だった。
でも私がしっかりしなきゃ。子ども達を守ってあげれるのは私しかいないのだから。
また今日も電話がなる。
「…はい。」
『私、お宅の旦那と寝たわ!!』
「………。」
『私、お宅の旦那と寝たわ!!』
「…今も…一緒にいる…くせに…。」
『私、お宅の旦那と寝たわ!!』
「…知っていますよ。」
『私、お宅の旦那と寝たわ!!』
「だから主人と一緒に殺して山に埋めてあげたじゃない!仲良く2人でずっと寝ていなさいよ!!!」
まだ本妻に対抗しようだなんて本当にバカな女だわ。
「ママ~!ただいま~!あれ?パパから電話あったの?」
「おかえりなさい。まだパパからは電話はないわよ。」