Archive for 5月, 2010

ザリザリ…

あれは僕が小学5年生のころ。
当時、悪がきで悪戯ばかりだった僕と、
友人のKは、しょっちゅう怒られてばかりでした。

夏休みのある日、こっぴどく叱られたKは、
僕に家出を持ちかけてきました。
そんな楽しそうなこと、
僕に異論があるはずもありません。

僕たちは、遠足用の大きなリュックに
お菓子やジュース、マンガ本など
ガキの考えうる大切なものを詰め込み、
夕食が終わってから、近所の公園で落ち合いました。
確か、午後8時ごろだったと思います。
とはいっても、そこは浅はかなガキんちょ。
行く当てもあろうはずがありません。

「どうする?」
話し合いの結果、畑の中の小屋に決まりました。
僕の住んでいるとこは、長野の片田舎なので、
集落から出ると、周りは田畑、野原が広がっています。
畑の中には、農作業の器具や、
藁束などが置かれた小屋が点在していました。
その中の、人の来なさそうなぼろ小屋に潜り込みました。

中には、使わなくなったような手押しの耕運機?があり、
後は、ベッドに良さそうな藁の山があるだけでした。
僕たちは、持ってきた電池式のランタンをつけ、
お菓子を食べたり、ジュースを飲んだり、
お互いの持ってきたマンガを読んだりと、
自由を満喫していました。

どのくらい時間がたったでしょうか。
外で物音がしました。
僕とKは飛び上がり、
慌ててランタンの明かりを消しました。
探しに来た親か、小屋の持ち主かと思ったのです。
二人で藁の中にもぐりこむと、
息を潜めていました。

「ザリザリ・・・・ザリザリ・・・」
何か、妙な音がしました。
砂利の上を、何かを引きずるような音です。
「ザリザリ・・・ザリザリ・・・」
音は、小屋の周りをまわっているようでした。
「・・・なんだろ?」
「・・・様子、見てみるか?」
僕とKは、そおっと藁から出ると、
ガラス窓の近くに寄ってみました。

「・・・・・!!」
そこには、一人の老婆がいました。
腰が曲がって、骨と皮だけのように痩せています。
髪の毛は、白髪の長い髪をぼさぼさに伸ばしていました。
「・・・なんだよ、あれ!・・・」
Kが小声で僕に聞きましたが、僕だってわかりません。
老婆は何か袋のようなものを引きずっていました。
大きな麻袋のような感じで、
口がしばってあり、長い紐の先を老婆が持っていました。
さっきからの音は、これを引きずる音のようでした。

「・・・やばいよ、あれ。山姥ってやつじゃねえの?」
僕らは恐ろしくなり、ゆっくり窓から離れようとしました。

ガシャーーーン!!
その時、Kの馬鹿が立てかけてあった鍬だか鋤を倒しました。
僕は慌てて窓から外を覗くと、老婆がすごい勢いで
こちらに向かって来ます!
僕はKを引っ張って藁の山に飛び込みました。

バタン!!
僕らが藁に飛び込むのと、
老婆が入り口のドアを開けるのと、
ほとんど同時でした。
僕らは、口に手を当てて、
悲鳴を上げるのをこらえました。

「だあれえぞ・・・いるのかええ・・・」
老婆はしゃがれた声でいいました。
妙に光る目を細くし、
小屋の中を見回しています。
「・・・何もせんからあ、出ておいでえ・・・」
僕は、藁の隙間から、老婆の行動を凝視していました。
僕は、老婆の引きずる麻袋に目を止めました。
何か、もぞもぞ動いています。
と、中からズボっと何かが飛び出ました。

(・・・・・!)
僕は目を疑いました。
それは、どうみても人間の手でした。
それも、子どものようです。

「おとなしくはいっとれ!」
老婆はそれに気付くと、
足で袋を蹴り上げ、
手を掴んで袋の中に突っ込みました。
それを見た僕たちは、もう生きた心地がしませんでした。

「ここかあ・・・」
老婆は立てかけてあった、フォークの大きいような農具を手に、
僕たちの隠れている藁山に寄ってきました。
そして、それをザクッザクッ!と山に突き立て始めたのです。
僕らは、半泣きになりながら、
フォークから身を避けていました。
大きな藁の山でなければ、今ごろ串刺しです。
藁が崩れる動きに合わせ、
僕とKは一番奥の壁際まで潜っていきました。
さすがにここまではフォークは届きません。

どのくらい、耐えたでしょうか・・・。
「ん~、気のせいかあ・・・」
老婆は、フォークを投げ捨てると、
また麻袋を担ぎ、小屋から出て行きました。
「ザリザリ・・・・ザリザリ・・・・」
音が遠ざかっていきました。

僕とKは、音がしなくなってからも、
しばらく藁の中で動けませんでした。
「・・・行った・・・かな?」
Kが、ようやく話し掛けてきました。
「多分・・・」
しかし、まだ藁から出る気にはなれずに、
そこでボーっとしていました。

ふと気が付くと、背中の壁から空気が入ってきます。

(だから息苦しくなかったのか・・・)
僕は壁に5センチほどの穴が開いてるのを発見しました。
外の様子を伺おうと、顔を近づけた瞬間。

「うまそうな・・・子だああ・・・・!!」

老婆の声とともに、
しわくちゃの手が突っ込まれました!!

僕は顔をがっしりと掴まれ、穴の方に引っ張られました。
「うわああ!!!」
あまりの血生臭さと恐怖に、
僕は気を失ってしまいました。

気が付くと、そこは近所の消防団の詰め所でした。
僕とKは、例の小屋で気を失っているのを
親からの要請で出動した地元の消防団によって
発見されたそうです。
こっぴどく怒られながらも、
僕とKは安心して泣いてしまいました。

昨晩の出来事を両方の親に話すと、
夢だといってまた叱られましたが、
そんなわけがありません。

だって、僕の顔にはいまだに、
老婆の指の跡が痣のようにくっきり残っているのですから。


勿忘草

今から話すお話は3年前、僕がまだ高校2年生だった時の話です。
その頃、僕はとあるコンビニでバイトをしていました。そのバイト先には
同い年の女の子と、50過ぎくらいの店長、あと4人程年上の方が働いていました。
夏休みに入った翌日の朝、僕はいつものようにバイト先へ向かいました。
店に入るとその日の朝の担当の同い年の女の子と3才年上の先輩が既にレジに着いていました。
僕「おはようございまーす。」
先輩「おう、K君(僕の名前です)!早く入ってね~。」
僕「はーい。」
いつものように会話を交わた後、店の奥で制服を着て仕事を始めました。
その日の僕の主な仕事は、品物を並べたりすることでした。
朝の込み入った時間が終わり、客入りが一段落したとこで同い年ということで
仲良くしていた女の子が話しかけてきました。
「K君、夏休みって何か予定ある?」
「いや、ないよ。とりあえずバイト以外は寝て暮らす(笑)」
「K君て、この近くの廃屋知ってる?」
「ああ、知ってる。幽霊が出るって噂の!」
確かに知っていました。その廃屋はこのコンビニから程近い所にある小さな屋敷でした。
昔、家主が自殺したという話で町では幽霊が出るという噂の家でした。
以前同級生が見たという話も聞きましたが、僕は幽霊など信じないほうなので一笑に伏していました。

「あの屋敷がどうしたのさ?」
「出る・・って噂は知ってるでしょ?」
「知ってるよ。自殺した家主の霊でしょ。」
「違うのよ。それがね、幽霊じゃなくて虫が出るんですって」
「ぶっ」
僕は爆笑してしまった。その子があんまり真剣な顔で「虫」とか言うから。
「違うのよ!その虫っていうのは普通の虫じゃなくて、その家にやってきた人に憑く虫らしいの。」
「はぁ?」
ガー・・自動ドアが開いてお客が入ってきた。ここで一旦雑談タイムは終了。
次にその子とその廃屋について話したのは夕方になり、僕たちのシフトが終わってからだった。
夏ということもあり、まだ外は明るいので僕のその子は店の側の河原でお喋りをしていた。
「で・・さっきの話だけどね。」
またか。と僕は思った。正直、関心がない。それに・・と考えてみると何か変だ。
この子は普段結構大人しめの子で、お喋りをしていても僕の学校の馬鹿話の聞き手に
なるばかりなのに、何故この話題には執着するのだろう。
「私の友達がね、憑かれちゃったらしいの。虫に。」
「・・・?」
「その子が、夏休み前の学校をあんまり休むものだから、心配してお見舞い行ったの。そしたら・・」
「そしたら?」
「その子、すっかり痩せちゃってて、私は屋敷で虫に憑かれたって言うのよ。もう虫が夢の中に
まで侵食してきてるって。もう眠ることもできないって。」
「・・で、その子はどうしたの。」
「今、体調を崩して入院しているわ。」
「そりゃあ気の毒だ。心の病だね。学校でいじめられでもしてたの?」
するとその子は大きく首を振った。
「そんなことない!むしろ明るくてクラスのリーダーみたいな子だったの。それが
あんな風になっちゃうと、却って不気味で・・。

僕は沈黙した。

「どうすればいいかなぁ?」
「そんなこと言われても。そんなものいないと思うけど。その子の心の問題だって。」
「そんなことないよ。あの廃屋にはいる。絶対にいる。」
やはり様子が変だ。表情もいつもの彼女とは違って、なんというかとても恐ろしいというか、慣れない物を見たような違和感が感じられた。
「じゃあ、行ってみる?」
「え?」
「行けばわかるじゃん。いるかいないか。あ、別に変なことはしないので大丈夫デスよ。」
「バカ!」
その笑顔はいつものその子に戻っていた。僕は少し安心した。
「でも、怖いなぁ・・。あの子みたいに憑かれちゃったりしたらやだな。」
僕は自分から話を振っておいて、今更その子だけ逃げるのが心外だった。と、言うより心霊スポットで
頼りがいのあるところを見せて男をあげようという気持ちがあった。
なんて言っても僕は高2。かっこつけたい盛りだったから。今思えばそれが間違いだった。
ただの女の子のお茶目な嘘くらいに受け止めて、その話を流してしまえばよかったのに。
うまい具合にあたりは薄暗くなってきていた。とりあえずさっきまで働いていたコンビニに入って懐中電灯を買った。
顔見知りの店員だったから「なんに使うんだよ。」と笑いながら聞いてきたけど、目的は言わなかった。
そして、廃屋に着いたときはあたりはすっかり暗くなっていた。
「やっぱりよそうよ。」
とその子は言った。
「ここまで来たんだからちょっと中覗いてこうよ。大丈夫だって。」
僕は至って冷静だった。怖いという気持ちは微塵もなかった。いや、あるとすればむしろ先ほどの彼女の表情だった。
あの表情を思い出すとなぜか身震いがする。
引き戸の、普通のドアをあけて中に入った。ドアが錆びていて開けるときにギイイと耳障りな音を立てた。

中は真っ暗だった。家に入るとすぐ廊下があって、懐中電灯で照らすと部屋が
4つくらい廊下から行けるようになっていた。どれも引き戸だった。
「気味悪い・・。もう嫌だなぁ。」
と彼女は言った。僕は彼女に少し微笑して一番手前のドアを開けて中を照らした。
中は蜘蛛の巣が張っていて、下には木材のかけらが幾つも落ちていた。
「やっぱ何もでないじゃん。」
僕は言った。彼女は無言だった。ちょっと怖がらせすぎたか、と僕は思い、次の部屋の中を見たら帰ろうと思って、
その次の部屋のドアを開けた。やはり何もない。
「と、言うわけで帰りますか。何も出なかったね。」
と彼女に話しかけて、最初の玄関のドアを開けて外に出た。外はすっかり暗闇だった。
何にも起こらなくて少し残念だったが、僕は帰ろうと歩き出した。
そして気づいた。さっきから彼女は一言も喋っていない。
でも隣にはいる。
様子は変だ。喋らないしうつむいたままだ。彼女の髪がうつむいているために彼女の表情を見えなくしている。
と、異常な恐怖が僕を覆った。廃屋の幽霊にでも虫にでもない。彼女に。
僕はうつむいたままの彼女を廃屋の前に残して駆け出した。とにかくがむしゃらに走った。
この日ほど家に着いたときほっとしたことはなかった。
冷静に考えると実に奇妙な行動だった。顔見知りの子にそれほどの恐怖を覚えて逃げるなんて。
でも、その時は確かに怖かった。理屈じゃない。
なんというか、本当の未知の遭遇してしまった感覚を覚えた。そのとき、僕は本能でで「逃げる」という行動に出た。そう思う。

その日は彼女に連絡をとらなかった。
「明日は昼から彼女と同じシフトだ・・。明日謝ればいいさ。」
僕は自分に言い聞かせるようにして、そのまま眠りに着いた。
その日の夢は妙だった。
知らない人が僕の周りで何か話しかけている。みんなで一気にしゃべりかけてくるので
僕はまったく聞き取れない。
と・・「運が良いね。」
それだけがはっきり聞こえた。同時に目が覚めた。

その日、バイトに行った。でも彼女は現れなかった。店長に聞いてみると、無断欠勤らしい。
気が気じゃなくて、その日のバイトは手につかなかった。
そして、よく考えると夢の中の声はその子の、同い年の女の子の声だったということに気がついた。
その日からその子はバイト先に来なくなった。それから店長に一回理由を聞いたが、病気で辞めたと言われただけだった。
その後、その子と二度と会うことなく、受験の為高3になった時にバイトは辞めた。
今となっては噂の幽霊の正体も、彼女の言った「虫」の意味も、夢のなかの彼女の「運が良いね。」の言葉の意味もわからない。
だけど、あの日の「この世のものでない何か」に触れた感覚を僕は一生忘れることはないだろう。
ここからは僕の予想だけど、きっと彼女は「虫」に憑かれたんじゃないだろか。
そして僕は虫に憑かれなかったから、「運が良かった」のではないだろうか。
予想が稚拙すぎる、と言われればそれまでだけど、僕はそういう気がしてならない。
未知に触れる、近しいものが突然未知へと変わる。
こんなに恐ろしい体験が、あるのだろうか。


詳しい解説

A県にある有名な心霊スポットの旧Iトンネルに行った時の話。
当時高校生だった俺は、夏休みの深夜にDQNの男5人で集まって暇潰しをしていた。よくあるパターンで心霊スポット行くかwとなり、全員原付に乗って1時 間くらいかけて向かった。
到着したのは深夜2時。ビビりな俺は途中の山道から相当キテたが、雰囲気ありまくりのトンネルを目の前にして卒倒寸前。「余裕だろ」と粋がってた奴も軽く 体がのけ反ってるしw
まぁ、DQNだけに皆強がって真っ暗なトンネルに入ろうとしたら、普段なら真っ先に入っていくであろう井上(仮名)が最後尾でガクブルしてんの。
正直全員ビビってたんだが、自分よりも怖じ気付いた奴を見つけて心に余裕が出きた俺らは「井上、何ビビってんだよww」ってからかうと、うつむいて真っ青 な顔しながら「ビビってねーし!!」と強がるのが面白くて、俺ら4人は一斉にダッシュして奥まで入って行った。
もちろん追いかけてくると思っていたんだが、後ろからは足音がしないし、目の前は10センチ先も見えないぐらい真っ暗で、逆に俺らが深みにはまってしまっ た。

「やべ、戻ろうぜ」と言い、来た道を又もやダッシュで駆抜けてると、もうちょっとで外に出るという所で、一人が
「痛い痛い痛い痛い!!」
と絶叫してうずくまった。何が起こったのか分からず、振り返ると必死に右腕を押さえながら叫んでいる。
「おい、どうした?!」
と声をかけても痛いとしか言わず、入口のとこに立ってた井上が俺らを見て
「早く引っ張り出せ!!」
と怒鳴ったのを聞いて、3人がかりで引きずろうとしたんだが、全く動かないんだよ。体重60キロぐらいの筈なのに、男3人が力一杯引っ張っても動かない し、その間もずっと痛い痛いと叫んでる。
尋常じゃない空気に俺らはパニックになってると、急にうずくまってた奴が気が狂ったように「ヒャハハハハ…」って笑い出した。目は白目を向いて、顔はこれ でもかってぐらい歪ませてる。
その瞬間そいつの体が軽くなり、今だ、って俺らは外に引きずり出した。それでも笑ったまんまのそいつに井上が寄って行くと、「しっかりしろ」と怒鳴りなが らビシバシ顔をハタキだす。
すると、ハッとしたようにそいつが気を取り戻して「あれ、何やってんの?ここどこ?」とすっとぼけた事を言い出す始末。

誰も冗談を言う状況じゃなく、普通に今あった事を伝えると、
「そういえば顔と腕が痛いな」
そう言い右腕のシャツを捲ると、くっきり骨のように細い手形がついてた。俺ら真っ青になって「早く帰ろうぜ」ということになり、原付5台が縦に並んで山道 を走って帰った。
腕に手形の奴が前から2番目、井上がその後ろだったんだが、何にもない平坦な道で手形の奴が派手にコケたんだよ。井上も後ろにいた俺らも急ブレーキでなん とか二次災害は避けられたんだけど、コケた奴は血だらけ。悲惨な状況になりながらも俺らは家路に着いた。

手形の奴は近所の緊急病院に直行し、俺らは井上の提案で寺にお祓いに行くことにした。つってもまだ午前4時だったし、朝になるまでファミレスで飯を食いな がら待つ事にした。そこで井上がさっきの事を話出した。

「お前ら、トンネルの中にババアが立ってたの見えなかったのか?真っ暗なのにババアだけしっかり見えたんだよ。怖くて入れるわけねーじゃん。なのにお前ら 自分からダッシュで入って行ったからババアも付いてったよ。
で、おまえらが戻ってきたら、しっかりとあいつ(手形の奴)の腕を掴んで奥に向かって引っ張ってるじゃん。で、スッとババアが消えた瞬間、あいつ笑い出し たし。それと、コケた時、あいつの後輪が横から押されたみたいにスベッたんだよ。ありゃコケるわな」

俺らは口数の少ないまま手形の奴からの連絡を待ち、打撲とすり傷で入院する必要は無いと知り、合流して朝一でお祓いに行った。
すでに数年経つが俺らは元気に過ごしています。


ヒョウセエ

一般的に見て洒落にならないかどうかはさておいて、俺的にめちゃくちゃ怖かったことを思い出したので書く。
ちょっと会話だとかは定かじゃないから、半分フィクションだと思って欲しい。

俺は幼少期、G県の山間部に住んでいた。
まあ田舎にありがちな話だけど、隣近所は全部自分の一族。
イトコや、ハトコ?っていうのか?そういう諸々とよく連れ立って遊んだもんだった。
中でも一番俺が懐いていたのは、年の近い(といっても10くらいは上だったようだけど)父方の叔父。
なんでもよく知っているし、絵や楽器も上手くて、俺と同じくらいの年齢の親戚ガキ共はみんな彼によく懐いていたらしい。
「らしい」っていうのは、つい最近まで俺も、俺の兄貴も弟も、彼の存在を忘れていたから。
法事でつい最近G県を訪れた折に、従姉がふと彼の名前を出して、ようやく思い出した。
今にして思えば、なんであんなに親しくしていたのに忘れていたのか、さっぱりわからないんだけれどね。

その日、俺の兄貴が「小学○年生」みたいな(もしかしたら「てれびくん」とかだったかなあ)雑誌の付録で、手作り日光写真機を入手して、俺や弟が「自分た ちも欲しい」とダダをこねた。
すると叔父さんがヒョイッと現れて(いつも不意に現れる人だった記憶がある)、「よし、そんなら叔父ちゃんがこさえてやる」みたいなことを言って、翌日に は手作りらしい写真機を俺と弟、従姉にくれた。
叔父さん、俺、兄貴、弟と従姉、5人でどこかの・・どこだっただろう、境内みたいな場所だったと思うんだけど、とにかく見晴らしと日当たりのいい場所で早 速撮影開始。
・・と言っても、日光写真ってものはだらだらと待つ時間ばかりが長くって、当初のワクテカも、数枚の作品が完成する頃には飽きに変わってしまっていた。

叔父はそれを見越していたのか、伸縮式の望遠鏡を持参しており、俺たちに順繰り順繰り見せてくれた。
何度目かの俺が覗く番が回ってきた時、俺はなんだか妙なものを見つけた。
刈り取りが済んで一面さみしくなった田んぼの、すごく遠くの一枚に、変な人影?がいた。
毛の黄色い、白い?猿? みたいな生き物が、ふらふらしている。
「ふらふらしている」と書くと衰弱とか泥酔みたいだけど、そういうんじゃなくって、妙な踊りを踊っているみたいだった。
タコみたいにくにゃくにゃしてて、やけに気味が悪かったのを覚えてる。

少し寒気を感じた俺は、叔父に「変なのがいる」と望遠鏡を渡した。
叔父は望遠鏡をあちこちに向けて、俺の言う変なものを探していた。
そしてややあって、「お、これかあ。確かにこれは妙な」とまで言って、叔父は黙ってしまった。
みるみるうちに顔色が悪くなって、露骨なくらい震えていた。
俺はすぐに「これはただごとじゃない」と察した。
俺の後に望遠鏡を覗く順番だった弟もそれを見ていたが、何が起こったのかわからない様子だった。
確か、兄貴と従姉は少し離れたところで日光写真機をいじっていたと思う。

それからどうやって帰ったのか覚えていない。
記憶の中でのシーンは、本家の座敷に飛んでいる。俺、兄、弟、従姉、4人並んで正座させられ、目の前には顔なじみの神主のじいさまがいる。
無理に酒を飲まされ、頭に変な粉をかけられた。俺は粉のことをはっきり覚えてはいないんだけど、従姉と弟が言うに、あれは一握りの灰だったらしい。
じいちゃんは怒っていた。ばあちゃんは泣いていた。
「ヒロヤス(叔父の名)はアテラレてしまった、ヒョウセエ(?)を見てしまった」と親父が叔母に言っていた。
「気違いになってしまった」「一生治らないの?」「治るってのは聞いたことがない」みたいな会話があったそうだ(俺は覚えてない。兄の記憶だ)。

あの踊っていた猿?のようなものは、ヒョウセエというバケモノだそうで、「間近でヒョウセエを見ると、ばかになる」と聞いた。
俺のように、「何か妙なものがいるぞ」というくらいではなんともないが、その顔を見てしまったら、もうダメらしい。

「叔父さんはそれから亡くなったの?」と俺が聞くと、従姉は「生きてる」と答えた。
「生きてるけど、会えないよ」
特別な療養所(精神病院のことだろうかと思う)に今もいるらしい。
「完全に精神を病んでるから、会わないほうがいい」と、彼女はうつむいたまま言った。
なんでも、従姉は3年ほど前に会ったんだそうだ。
見るかげもなくやつれていて、へらへら笑ったまま、くにゃくにゃと変な動きをしていた、らしい。

読んでも怖くないかもわからんね。
ついさっきまで楽しく笑いあっていた人が、ほんの一瞬でアレになってしまうという出来事が俺的にものすごく怖かったんだけどさ。


交換日記

今年の正月、実家に帰った私は高校時代の後輩のKからある相談を受けた。
本人にも承諾を得たので彼の話の内容をほぼ忠実に書き記したいと思う。
以下はKの会話である。
話の始まりは俺が専門学校に通っていた頃になるんですけど・・・
専門学校に入学して数ヶ月してある女の子と付き合う事になったんです。
その子は同じクラスの子で毎日顔を合わすわけですよ。
当時ね、女の子同士とか恋人同士での交換日記が流行っていたんです。
で、俺も半ばノリで彼女と交換日記をする事になったんです。
その時はどうせ2~3ヶ月くらいで飽きてやらなくなるだろうって思ってたんですよね。
だけどね、何だかんだで結構長く続いたんです。
日記って言ってもちゃんとした日記帳じゃなくてどこにでもあるようなノートにお互い日記を書いて交換してたんです。
女の子チックな日記帳を持ち歩くのって何だか恥ずかしいじゃないですか。
だから俺の希望で普通のノートに日記を書いてくれって頼んだわけですよ。

で・・・彼女と付き合い始めて半年くらい経ったある日、突然、彼女が学校に来なくなったんです。
一人暮らしの彼女の家に行ったり電話したりして何とか彼女と連絡を取ろうとしましたけど結局、最後まで彼女と連絡は取れませんでした・・・。
それから暫くして警察から電話があって彼女が自殺したという事を知ったんです・・・。
山中で彼女の遺体が見つかったんですが・・・その時に彼女が所有していた遺品の中に俺の日記があったんで警察から連絡がきたんです。
交換日記って言っても普通は日記を交換しているのは学校にいる間だけじゃないですか。
でも最後に彼女と会った日、俺の日記を家に持ち帰ってゆっくり見たいって言うんでそのまま彼女は俺の日記を持って帰っちゃったんです。
あの日で交換日記が終わる事を分かっていた上での行動だったんでしょう。
俺の日記の最後のページには彼女のものと思われる震えた字で「ごめんね」と書いてありました。
彼女、元々体が弱くて幼い頃からずっと病院に通っていたんです。
彼女の遺書には「苦しくて苦しくてもう耐えられない・・・」って内容が書いてありました。

病気の事も知っていたのに、その時一番彼女の近くに居たのに。
彼女を救えなかった自分を恨みました。
彼女の葬儀の時に初めて彼女の両親と会いました。
その時に俺の持っていた彼女の日記を彼女の両親に見せたんです。
最初はこのまま俺が彼女の日記を持っているべきだろうかって悩みました。
でも彼女の両親が自分達で保管したいと言うので彼女の日記は彼女の両親に手渡しました。
そんな事があってからすぐ俺は学校を辞めました。
アルバイトを見つけてフリーター生活を始めました。
バイト先で新しい恋人も見つけて少しずつだけど自殺した彼女を思いだすことも減っていきました。
1年も経つと自殺した彼女を思い出す事は殆ど無くなっていました。
で、新しい恋人と同棲する事になって住んでいたアパートを引っ越す事になったんです。
引越しの前日、荷物整理していると、見慣れないノートが出てきたんです。
何のノートだろうってページを開いたら
彼女の日記なんです。
自殺した彼女の!
間違いなく彼女の日記は彼女の両親に手渡したんですよ!
なのにそれが俺の手元にある。

混乱した俺は自殺した彼女の実家に電話しました。
彼女の親に話を聞いたところ
葬儀の日、俺が日記を手渡したその日の内に彼女の日記は行方不明になったらしいんです。
俺が無意識の内に持ち出してしまっていたのか?なんて考えましたけどそうじゃないってすぐに分かりました。
彼女の日記をぺらぺらと捲って見てみたんです。
すぐに気付いたんですけど、その日記おかしいんですよ。
ノートのほぼ全ページが日記で埋まってるんです。
最後に交換日記をした時にはせいぜいノートの半分くらいしか埋まってなかったんですよ。
日記の日付を見てみると、彼女が死んだ日以降も日記が続いてるんです。
で、彼女が死んだ日以降の日記の内容ってのが、俺の恋人とデートした内容とか話をした内容とかそういう事が書かれているんですよ。
そういう事もあって結局、その時に付き合っていた恋人ともすぐに別れたんです。
それ以来、誰とも付き合ってませんよ。
だって誰かと付き合ったらまた日記が書かれちゃうと思うんで。
今でもね、自殺した彼女がどこかで俺の事を見ているんじゃないか・・・って思うんです。


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