Archive for 5月 25th, 2010

ヒョウセエ

一般的に見て洒落にならないかどうかはさておいて、俺的にめちゃくちゃ怖かったことを思い出したので書く。
ちょっと会話だとかは定かじゃないから、半分フィクションだと思って欲しい。

俺は幼少期、G県の山間部に住んでいた。
まあ田舎にありがちな話だけど、隣近所は全部自分の一族。
イトコや、ハトコ?っていうのか?そういう諸々とよく連れ立って遊んだもんだった。
中でも一番俺が懐いていたのは、年の近い(といっても10くらいは上だったようだけど)父方の叔父。
なんでもよく知っているし、絵や楽器も上手くて、俺と同じくらいの年齢の親戚ガキ共はみんな彼によく懐いていたらしい。
「らしい」っていうのは、つい最近まで俺も、俺の兄貴も弟も、彼の存在を忘れていたから。
法事でつい最近G県を訪れた折に、従姉がふと彼の名前を出して、ようやく思い出した。
今にして思えば、なんであんなに親しくしていたのに忘れていたのか、さっぱりわからないんだけれどね。

その日、俺の兄貴が「小学○年生」みたいな(もしかしたら「てれびくん」とかだったかなあ)雑誌の付録で、手作り日光写真機を入手して、俺や弟が「自分た ちも欲しい」とダダをこねた。
すると叔父さんがヒョイッと現れて(いつも不意に現れる人だった記憶がある)、「よし、そんなら叔父ちゃんがこさえてやる」みたいなことを言って、翌日に は手作りらしい写真機を俺と弟、従姉にくれた。
叔父さん、俺、兄貴、弟と従姉、5人でどこかの・・どこだっただろう、境内みたいな場所だったと思うんだけど、とにかく見晴らしと日当たりのいい場所で早 速撮影開始。
・・と言っても、日光写真ってものはだらだらと待つ時間ばかりが長くって、当初のワクテカも、数枚の作品が完成する頃には飽きに変わってしまっていた。

叔父はそれを見越していたのか、伸縮式の望遠鏡を持参しており、俺たちに順繰り順繰り見せてくれた。
何度目かの俺が覗く番が回ってきた時、俺はなんだか妙なものを見つけた。
刈り取りが済んで一面さみしくなった田んぼの、すごく遠くの一枚に、変な人影?がいた。
毛の黄色い、白い?猿? みたいな生き物が、ふらふらしている。
「ふらふらしている」と書くと衰弱とか泥酔みたいだけど、そういうんじゃなくって、妙な踊りを踊っているみたいだった。
タコみたいにくにゃくにゃしてて、やけに気味が悪かったのを覚えてる。

少し寒気を感じた俺は、叔父に「変なのがいる」と望遠鏡を渡した。
叔父は望遠鏡をあちこちに向けて、俺の言う変なものを探していた。
そしてややあって、「お、これかあ。確かにこれは妙な」とまで言って、叔父は黙ってしまった。
みるみるうちに顔色が悪くなって、露骨なくらい震えていた。
俺はすぐに「これはただごとじゃない」と察した。
俺の後に望遠鏡を覗く順番だった弟もそれを見ていたが、何が起こったのかわからない様子だった。
確か、兄貴と従姉は少し離れたところで日光写真機をいじっていたと思う。

それからどうやって帰ったのか覚えていない。
記憶の中でのシーンは、本家の座敷に飛んでいる。俺、兄、弟、従姉、4人並んで正座させられ、目の前には顔なじみの神主のじいさまがいる。
無理に酒を飲まされ、頭に変な粉をかけられた。俺は粉のことをはっきり覚えてはいないんだけど、従姉と弟が言うに、あれは一握りの灰だったらしい。
じいちゃんは怒っていた。ばあちゃんは泣いていた。
「ヒロヤス(叔父の名)はアテラレてしまった、ヒョウセエ(?)を見てしまった」と親父が叔母に言っていた。
「気違いになってしまった」「一生治らないの?」「治るってのは聞いたことがない」みたいな会話があったそうだ(俺は覚えてない。兄の記憶だ)。

あの踊っていた猿?のようなものは、ヒョウセエというバケモノだそうで、「間近でヒョウセエを見ると、ばかになる」と聞いた。
俺のように、「何か妙なものがいるぞ」というくらいではなんともないが、その顔を見てしまったら、もうダメらしい。

「叔父さんはそれから亡くなったの?」と俺が聞くと、従姉は「生きてる」と答えた。
「生きてるけど、会えないよ」
特別な療養所(精神病院のことだろうかと思う)に今もいるらしい。
「完全に精神を病んでるから、会わないほうがいい」と、彼女はうつむいたまま言った。
なんでも、従姉は3年ほど前に会ったんだそうだ。
見るかげもなくやつれていて、へらへら笑ったまま、くにゃくにゃと変な動きをしていた、らしい。

読んでも怖くないかもわからんね。
ついさっきまで楽しく笑いあっていた人が、ほんの一瞬でアレになってしまうという出来事が俺的にものすごく怖かったんだけどさ。


交換日記

今年の正月、実家に帰った私は高校時代の後輩のKからある相談を受けた。
本人にも承諾を得たので彼の話の内容をほぼ忠実に書き記したいと思う。
以下はKの会話である。
話の始まりは俺が専門学校に通っていた頃になるんですけど・・・
専門学校に入学して数ヶ月してある女の子と付き合う事になったんです。
その子は同じクラスの子で毎日顔を合わすわけですよ。
当時ね、女の子同士とか恋人同士での交換日記が流行っていたんです。
で、俺も半ばノリで彼女と交換日記をする事になったんです。
その時はどうせ2~3ヶ月くらいで飽きてやらなくなるだろうって思ってたんですよね。
だけどね、何だかんだで結構長く続いたんです。
日記って言ってもちゃんとした日記帳じゃなくてどこにでもあるようなノートにお互い日記を書いて交換してたんです。
女の子チックな日記帳を持ち歩くのって何だか恥ずかしいじゃないですか。
だから俺の希望で普通のノートに日記を書いてくれって頼んだわけですよ。

で・・・彼女と付き合い始めて半年くらい経ったある日、突然、彼女が学校に来なくなったんです。
一人暮らしの彼女の家に行ったり電話したりして何とか彼女と連絡を取ろうとしましたけど結局、最後まで彼女と連絡は取れませんでした・・・。
それから暫くして警察から電話があって彼女が自殺したという事を知ったんです・・・。
山中で彼女の遺体が見つかったんですが・・・その時に彼女が所有していた遺品の中に俺の日記があったんで警察から連絡がきたんです。
交換日記って言っても普通は日記を交換しているのは学校にいる間だけじゃないですか。
でも最後に彼女と会った日、俺の日記を家に持ち帰ってゆっくり見たいって言うんでそのまま彼女は俺の日記を持って帰っちゃったんです。
あの日で交換日記が終わる事を分かっていた上での行動だったんでしょう。
俺の日記の最後のページには彼女のものと思われる震えた字で「ごめんね」と書いてありました。
彼女、元々体が弱くて幼い頃からずっと病院に通っていたんです。
彼女の遺書には「苦しくて苦しくてもう耐えられない・・・」って内容が書いてありました。

病気の事も知っていたのに、その時一番彼女の近くに居たのに。
彼女を救えなかった自分を恨みました。
彼女の葬儀の時に初めて彼女の両親と会いました。
その時に俺の持っていた彼女の日記を彼女の両親に見せたんです。
最初はこのまま俺が彼女の日記を持っているべきだろうかって悩みました。
でも彼女の両親が自分達で保管したいと言うので彼女の日記は彼女の両親に手渡しました。
そんな事があってからすぐ俺は学校を辞めました。
アルバイトを見つけてフリーター生活を始めました。
バイト先で新しい恋人も見つけて少しずつだけど自殺した彼女を思いだすことも減っていきました。
1年も経つと自殺した彼女を思い出す事は殆ど無くなっていました。
で、新しい恋人と同棲する事になって住んでいたアパートを引っ越す事になったんです。
引越しの前日、荷物整理していると、見慣れないノートが出てきたんです。
何のノートだろうってページを開いたら
彼女の日記なんです。
自殺した彼女の!
間違いなく彼女の日記は彼女の両親に手渡したんですよ!
なのにそれが俺の手元にある。

混乱した俺は自殺した彼女の実家に電話しました。
彼女の親に話を聞いたところ
葬儀の日、俺が日記を手渡したその日の内に彼女の日記は行方不明になったらしいんです。
俺が無意識の内に持ち出してしまっていたのか?なんて考えましたけどそうじゃないってすぐに分かりました。
彼女の日記をぺらぺらと捲って見てみたんです。
すぐに気付いたんですけど、その日記おかしいんですよ。
ノートのほぼ全ページが日記で埋まってるんです。
最後に交換日記をした時にはせいぜいノートの半分くらいしか埋まってなかったんですよ。
日記の日付を見てみると、彼女が死んだ日以降も日記が続いてるんです。
で、彼女が死んだ日以降の日記の内容ってのが、俺の恋人とデートした内容とか話をした内容とかそういう事が書かれているんですよ。
そういう事もあって結局、その時に付き合っていた恋人ともすぐに別れたんです。
それ以来、誰とも付き合ってませんよ。
だって誰かと付き合ったらまた日記が書かれちゃうと思うんで。
今でもね、自殺した彼女がどこかで俺の事を見ているんじゃないか・・・って思うんです。


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