Archive for 5月 24th, 2010

嘘つき

長い話になる。時間があるときにでも読んでくれたらうれしい。

俺は大学でオカルト系のサークルに入っている。
部員は少なくて、全部で5人。
部長のA、副部長のB、後はCとDだ。
残念ながら、全員男。人が少ない理由はこの辺にあるのかも。

ある日、Cが面白そうな話を持ってきた。
S県の山中に、それはそれはやばそうな建物があるらしく、そこに写真を取りに行かないか、という。
共通して暇人な俺たちは、もちろん行くことにした。
写真撮影は当然夜、テントを持って泊り込みで行こう、と盛り上がった。

副部長の車で麓まで行き、そこから徒歩で山の中へ。
お目当ての建物は、昔の廃校だった。
調べてきた部長の話では、取り壊されることも無く、まったく放置してあるらしい。
取り壊そうとすると祟りがあったとか、そんな噂まである。俄然興味が沸く。

明るいうちに現地に着く。
廃校から少し離れたところにテントを張り、準備は万端。
木々に囲まれて自然の中でキャンプ、ってのもたまには良い。
夜になるのを待った。

19時。
テントで出かける準備をしてた俺ら。外に居た副部長がこんなことを言った。
副「おい・・・学校の方から誰か来るぞ・・・?」
慌てて外に出ると、確かに学校へ続く道から誰かがくる。懐中電灯の明かりで分かった。
ゾンビのようにフラフラ歩いてくればまた怖かったかもしれないが、
暗い山道を、こちらに向かって懸命に走ってくる。
それは同い年くらいの女の子だった。
何か言っている。
女の子「たすけ・・・助けて・・・助けてください・・・!!」

息を切らしながら、助けを求めてくる女の子。なんというシチュエーション。
何事かと聞いてみると、こんなことらしい。
大学のサークルで心霊スポットである廃校に来た。
3人で廃校を探索してたが、1人が急に動けなくなった。金縛り?
窓からこちらのテントの明かりが見えた。
1人が付き添い、私が助けを求めに来た。

ちょっと可愛い女の子が助けを求めてる。当然断る理由はない。
と言っても、何があるか分からないので、副部長と俺がテントで待機、
部長、C、Dで廃校に向かうことにした。もちろんカメラを持って。

19時10分。3人と女の子が廃校に向かっていった。
テントに残るのはちょっと寂しい感じがしたが、副部長と話をして時間を潰した。
副「あの子、可愛かったなぁ。」
俺「ですねー。ああいう子、好みですよ。」
副「どうする?あの子の大学、名前聞かなかったけど女子大とかだったら。」
俺「つまり他の2人も女の子。うーん、こんなところで素敵な出会い・・・良いですね。」
副「でもさ、幽霊ってきっとあんな感じだよな。」
なんか不安なことを言う副部長。
あーでもない、こーでもない、といって部長達が戻ってくるのを待った。

19時40分。
部長達がテントに戻ってきた。2人だけで。部長とDだけだった。
Dはなにやらぐったりしており、部長が肩を貸していた。
これはただ事ではないと感じた副部長と俺。Dをテントに寝かす。気を失ったようだ。
真っ青になっている部長から話を聞く。
部「やばい・・・やばかった。女の子の連れが居る2階の教室まで行ったが、2人共倒れてた。すぐに駆け寄ったが、そこで何かがきた。」
俺「何かって・・・なんです?」
部「分からない。何かが後ろから迫って来るのがわかった。
Cがすぐに写真を撮ろうと振り返ったが、シャッターを押す前にCの動きが固まった。
顔が恐怖に引きつってた。カメラを落としてガクガクと震え始めた。
女の子も後ろを見て震えてた。口をパクパクさせて、声も出ないようだった。」

副部長と俺にも、部長の恐怖が伝わってきた。何かがいた。何だろう。何がいたんだ?
部「背後から迫ってくるものを感じて、俺はこう思った。これは見てはいけない、見たら動けなくなる、と。それをDにも言った。だが少し遅かった。」

部「Dもその何かを見た。でも完全に見たわけじゃないようだった。見ての通り、なんとか動ける程度で済んだ。」
俺「女の子とCは完全に見てしまったのですね・・・その何かを。」
副「それじゃ、・・・全部で4人か。まだその教室に?」
部「あぁ。俺だけじゃ、まだ動けるDを連れ帰るだけで精一杯だった。すまん・・・。」
謝る部長。いい加減なサークルだが、部長としての立場もあるのだろう。

俺「4人か。行って、連れ帰らないと。その何かは、見なければ平気なんですよね?」
部「平気だった。振り返らなければ、戻って来れた。」
副「すぐ助けに行こう。でもDだけ置いていけないから・・・お前、ここでDと待っててくれないか?部長と行ってくる。」
また蚊帳の外。
非常に残念・・・でも、少し安心してしまった俺。
まぁ・・・分かるだろ?さすがに怖いからさ。

20時。辺りは真っ暗だ。部長と副部長が廃校に向かう。
目的は4人を連れ帰ること。俺はDとテントで待機する。

20時10分。Dが気が付く。
俺「おい、D、大丈夫か?」
D「ん・・・ああああっぁ・・・、あぁ、ここは・・・テントか。オレ、どうやって戻ってきたんだ?」
俺「部長が連れ帰って来てくれたよ。なにやら大変なことになっちまったな。
今、副部長と2人で4人を助けに行ってる。」
俺は部長から聞いた話をする。
D「あぁ、そうか・・・そうだ。まったく大変なことに・・・」
と、突然Dが驚いた顔をする。
D「おい、今、なんていった?部長が・・・?」
俺「ん?部長が肩貸して、お前を連れてきた。で、副部長と一緒にまた向かった。落ち着けよ。何か飲むか?」
D「バカな・・・ありえない!全員見たんだ。アレを!部長だって見たんだ!」
俺「え・・・?」
D「Cも女の子も、部長もアレを見て倒れたんだ!オレはなんとか外まで這うように逃げて・・・そこから覚えてない・・・!」
俺「でも、確かに部長がお前を連れて・・・じゃあ、あれは誰だよ!?確かに部長だったぞ?」
D「・・・副部長は、その、部長と行ったのか?」
俺「あぁ、4人を助けに・・・」
D「副部長が危ない・・・!すぐに行こう!」
俺「でもほら、部長はすぐに気が付いて、お前を連れ帰ってきただけかも知れないだろ?」
D「何言ってんだ!部長は「見てない」って、嘘付いてるじゃないか!見てるんだよ!なんで嘘付く必要があるんだ?」
俺は混乱した。話が分からない。いや、分かりたくなかっただけかも。
とにかく、Dが気が付いたのだから、もうここで待ってなくても良い。
俺とDも廃校へと向かった。

20時25分。山道を進み、廃校に着く。
なんてとこだ。俺は霊感がある訳じゃないが、ここは危険だと分かる。何かいる。
俺はみんなの名前を呼んでみる。・・・が、返事はない。
D「2階の教室にいるのだろうな。」
俺「あぁ・・・何か来ても、見なければ、平気・・・だよな?」
D「だといいな。6人を探して、早く戻ろう。」
不安が高まる。一刻も早くここから帰りたい。

2階へ行く。ギシギシと床が鳴る。古い木造建築。
風が吹き抜ける。隙間風が不気味な音をたてる。
もう、何もかもが怖い。
懐中電灯の明かりだけを頼りに進む。
D「そこの教室だ。」
問題の教室に着いた。あぁ、この中に・・・もう逃げ出したい。

Dと教室に入る。
机や椅子はほとんど無い。閑散とした教室。
部屋の真ん中辺りに、何人が倒れている。見覚えのある服装だ。
背後からの気配は・・・まだ、ない。Dが居るだけだ。
俺は倒れている人の元へ、ゆっくりと近づいて行った。
そこで、ふと窓の外を見た。辺りは真っ暗だ。
月明かりのみ。他には何も見えない。
木々に隠されて、点けたままのテントの明かりも見えない。

見えない。見えない・・・?明かりは・・・見えない!?

俺は気付いた。

遅すぎたが、気付いた。

倒れてる人を見る。3人だ。やはり3人だ。6人じゃない。
騙された。

嘘つきは部長じゃない。いや、部長“だけ”じゃない。
ここからはどうやったって、テントの明かりは見えない。
女の子は嘘つきだ。
女の子の連れは居なかった。そもそも女の子なんて、居なかった。
倒れてるのは、俺の知っている3人だけだ。
部長も嘘つきだ。
そして、当然、Dも・・・嘘つきだ。
今、俺の後ろに居るDも。

何か聞こえる。子供の笑い声だ。
楽しそうな声。いや、狂ってるようにも聞こえる声だ。
俺はこれから、どうすればいい?誰か教えてくれ。

20時38分。Dがそっと、俺の肩に手を置いた。
俺の時間はここで終わる。


カカシ

年末から年明けにかけて、俺は実家の在る群馬に戻って郵便局でバイトをしていた。
高校2年の時から長期休みの時は必ずこの郵便局でバイトをしていたし、田舎な事もあって、その郵便局の配達ルートを全て覚えていた。
そんな事もあって、局員には「即戦力が来てくれた」と喜ばれたが、今回初めて郵便局でバイトするという工房Sの引率を任されてしまった。
早い話が、2,3日一緒に配達して、配達ルートを覚えさせろという事だ。
このS、かなりの御銚子者で、俺とは直ぐに冗談を言い合える仲になった。
こいつが配る所は50ヶ所程度。
配る家は少ないが、次の配達場所まで滅茶苦茶遠い、俗に「飛び地」と呼ばれている地域だ。

バイトを始めて8日目だった。
俺とSの配達地域は隣同士だった事もあり、局に帰る時にバス停横の自販機で待ち合わせをしていた。
その日、Sは目を真っ赤にして涙を流しながら、猛スピードで自転車を漕いで現れた。
時間は17時になろうとしていて、バイトは局に帰らないといけない時間を大幅に過ぎている。
転けたらしく、顔も服も自転車も泥まみれだった。
「どうしたんだ?」と聞くと、「ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ」を繰り返すだけで要領を得ない。
俺は配達物を破損・紛失したのかと思って、「とりあえず局に戻るぞ」と言って、Sを引っ張って局まで戻った。

Sの姿を見た集配課の課長が何事かと駆け寄って来た。
課長が「どうした? 手紙をなくしちゃったのか?」と聞くと、Sは「全部配りました」と言った。
どうにもこうにも要領が得ず、俺が「何があったんだ?」と聞くと「信じてくれないから」とSは言った。
その後、数名の局員が帰って来て同じ様な事をSに聞いたが「信じてもらえないから」の一点張り。
一人の局員が「もしかして真っ黒のカカシを見たのか?」と聞くと、Sは何度も頷いた。
もう一人の局員が「ああ、森で?それとも川?」と聞くと、Sは「両方」と答えた。

Sの配達ルートに、Aという家がある。
配達物を見る限り、中年の夫婦が2人で住んでいるようだ。
其処に行くには、300mほどの暗い森を抜け、小さな小川を渡り、畑の中道を通らなければならない。
ぶっちゃけ、こんな所に家建てるなと言いたくなるような所だ。
そのA宅は20年くらい前に火事になったらしい。
その火事で夫婦の子供と年寄りの3名が亡くなったそうだ。
年寄りの爺さんは子供を病院に運ぼうとして、森の道で力つきて
婆さんは黒こげで小川に浮かんでいて、子供は救急車で病院に運ばれたが、移送先の病院で死亡したそうだ。
今、A宅があるのは畑の中道を通った所になっているが、前は今の畑があった所らしい。
局員の話では、爺さんは子供を捜して、婆さんは今も熱さから逃げようとしているんじゃないかという事だ。

「最初はカカシだと思った。だけど真っ黒な頭の目が開いた。真っ白だった」とSは言った。
俺もふと思い返してみた。
確かあの畑にはカカシは無かった。
だけど、今年になって一回だけ川に浮かぶカカシを見た気がする。


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