昭和の30年代のこと。
横断歩道の標識を新しく作ることになりそのデザインのもととなるものを、政府が一般に公募したことがあったそうです。
横断歩道のイメージに合った写真やイラストの応募が、全国から集まりました。
その中から、九州に住むカメラマンAさんの写真が見事採用されました。
そしてその写真をもとにして作られたのが、親子が仲良く手をつないで歩く風景を表した標識。今わたしたちが普段目にしている横断歩道の標識です。
ところが、Aさんのカメラは仲のよい親子どころか、とんでもないものを写してしまっていたのでした。
標識の絵柄を募集していると聞いて、早速Aさんは愛用のカメラをもって町に出ました。
横断歩道にぴったりな被写体を探すうち、公園で父親に手をひかれて歩く女の子に目がとまりました。
「これだ!」Aさんは迷わずシャッターを切りました。
仲のよい親子の自然な表情が撮れたことにとても満足していました。
写真を送付してから何日か後、テレビでは誘拐殺人のニュースを報道していて、幼女を誘拐した犯人の顔がアップで写し出されていました。
それを見ていてAさんは妙な感覚に襲われました。知らないはずの犯人の顔を知っている…。 どうしてだろう。どこかで見たんだ…。
それもそのはずでした。Aさんはつい先日、その男をモデルに写真を撮っていたのですから。
Aさんが父親だと思ったのは誘拐犯、娘だと思ったのは彼に誘拐された少女だったのです。
可哀相なことに女の子はもう生きてはいませんでした。そして彼女が殺害されたのは、皮肉にもAさんが彼女の写真を撮った次の日だったということです。
横断歩道の標識、いちどじっくり観察してみてください。
手をひかれている女の子が、いやがっているようには見えませんか?